女たち5人の穏やかな暮らしは何を映し出す? 『ブランチライン』が描く、日常の“罪悪感”

池辺葵、最新作『ブランチライン』を読んで

 長女のイチがシングルマザーという道を選んだのは、夫の不倫がきっかけだ。もともと夫婦は不仲で、夫はイチと別れるために数々の嫌がらせを日常的に行ってきた。誰だって、家族がそんな目に遭っていることには耐えられない。イチの母も茉子も太重も、みんな口々に「もうそんなに頑張らなくてもいい」「そんな辛いならもう別れたら」と懸命に声をかけた。けれど仁衣は、止めを刺すように「一緒に暮らす価値のないやつ」と夫を罵った時のイチの顔が忘れられない。結果、岳とたったひとりの父親を引き離してしまったという事実をずっと引きずっているのだ。

「だから尚更懸命に生きようと思うんだ」

 自分が正しいと思うことが、いつも誰かにとって“正義”になるとは限らない。それでも時に、大切な誰かのために自分にとっての正義を貫き通す必要がある。そうでなくとも、人間は無意識のうちにこそ誰かの人生に影響を与えてしまう生き物だ。だからできるだけ、悪い影響ではなく“宝物”を与えられるような自分でありたい。その責任を本作で描かれる5人の女性はそっと請け負っている。

 忙しく過ぎる日々の中で忘れがちな心の最深部に迫る『ブランチライン』は、フィール・ヤング(祥伝社)で連載中。ハワイから一時帰国した岳と四姉妹の今後の生活、そして養育費を払い終え、二度と連絡するなと言う岳の父親を良くは思わない仁衣と、前妻に払う養育費を渋る父親を見た山田の関係性も気になるところ。単行本2巻は2021年春に発売が予定されている。

(※記事掲載時、一部表記に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。)

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■書籍情報
『ブランチライン』(祥伝社フィールコミックス)
著者:池辺葵
出版社:祥伝社
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