『美味しんぼ』海原雄山はツンデレだった? 美食の鬼が見せた心優しい一面とは
美食倶楽部主宰で、芸術家としても高い才能を発揮する海原雄山。刺激的な行動や言動が取り上げられがちだが、本当は厳しくも心優しい人物といわれる。
今回はそんな「心優しき雄山」を感じさせた行動を振り返ってみたい。
自身の器を贈る
全焼した料亭が再建されたことから、食事会に招かれた東西新聞社の大原社主と文化部のメンバー。そこに海原雄山も同席する。
宴席で参加者から「一番美味い刺身はなにか」と聞かれた雄山は宮古のマグロ、明石の鯛、大島のシマアジなどを挙げる。一方の山岡は同じ質問に「サバの刺身が美味かった」と発言し、雄山に「サバは所詮下魚」とバカにされてしまう。怒った山岡は、後日そのサバを食べさせることになった。
山岡の指摘したサバは、「幻の魚」と呼ばれる葉山の根付きのサバ。3日間葉山で釣りに挑み、栗田ゆう子が釣り上げる。そして、料亭に招かれていた一部のメンバーに、葉山の「大しげ」で、「幻のサバ」を振る舞う。
幻のサバを食べたメンバーは、一様にその味を絶賛。しかし雄山は「何だこの器は。良くもこんな器をこの海原雄山に出したな。こんな器で料理が食えるか、不愉快だ」と席を立つ。その光景を見た栗田は「美味しさを素直に認めようとしないなんて…」と不満げな顔を浮かべる。
器で体裁を繕った雄山だが、その後謝罪の意味を込めてか、料亭「大しげ」に自身が作った皿を贈っていた。雄山がほぼ初めて「優しさ」を見せた瞬間だった(美味しんぼ2巻)
酷評したカレー店にスパイスを贈る
評判のカレー専門店を訪れた雄山は、店主に対し「本物のカレーとはなんだ?」「カレー粉とはなんだ? インドにもカレー粉はあるのか?」「カレーとはなにか?」と矢継ぎ早に質問していく。
店主は雄山の質問に一切答えることが出来ず、ショックから店を開けることができなくなってしまう。その後雄山が「カレー対決」を山岡に提案し、究極対至高の勝負が繰り広げられる。
蟹とモルディブ・フィッシュの入ったカレーを作った究極と、「カレーの真髄はスパイス」と敢えてありふれたポークカレーで挑んだ至高の対決は引き分け。この対決で山岡に同行したカレー店の主は、理想のカレーを求めて、店で再度研究を重ねていく。
数日後、「自慢のポークカレーができた」と連絡を受けて文化部のメンバーが店を訪れると、再び営業休止の張り紙が。中に入ると、店主は「海原雄山先生が再び食べに来た」「『もっと美味しくなるはずだから研究しろ』と言ってあんなにたくさんのスパイスを…」と話す。そこには、大きなダンボールが置かれており、雄山が店主の姿勢を評価し、スパイスを贈ったようだった。さらに対決で自身が作ったスパイスの配合方法を教えてもらったことも明かされる。
「私なんかとは人間の格が違います。海原先生に勝つの負けるのと、私は恥ずかしい」と目頭を押さえる店主。雄山の器の大きさを見て、山岡は苦々しい顔を浮かべるのだった。(美味しんぼ24巻)
妻との思い出を口に……
朝食をテーマに対決することになった究極と至高。栗田に近城カメラマンと団社長がプロポーズし、それを引き止めることができず、バーテンダーの全日本カクテル選手権出場に協力するという名目で酒を飲み続け体調を崩した山岡に代わり、栗田が対決のすべてを取り仕切る。
ここで究極は、パンと新鮮なバターとマーマレード、サラダに牛乳、紅茶という料理を用意し、和食で勝負を挑んだ至高に見事勝利した。
会場を去ろうとする雄山に栗田は「今日の料理、海原さんの奥さんのお料理を盗みました」と謝罪。美食倶楽部主任中川の妻で、山岡の世話役だったおチヨから、雄山の妻が作った朝食を教えてもらったことを明かす。
怒るどころか満更でもない表情を浮かべた雄山は「なるほど。パンもマーマレードも私の妻の作った通りの味だった」と話す。栗田が「奥さんの愛情のこもった味です」と返すと、「私が大きな仕事に取り組んで上手く行かず心身ともにボロボロになっていたときに、あのパンを焼いてくれた。おかげで気力を取り戻し仕事に成功したよ」と目を細める。
そして「私の妻はあのバターは作らなかった」と称賛し、「あのバター、残っていたらおチヨに届けさせてくれ」と車に乗り込む。栗田は、「30分以内じゃないと味が落ちるから美食倶楽部に作りに行く」と拒否した。
やり取りを見た山岡は「この男がこんなふうに俺のおふくろのことを話すのは初めて聞いた」と目を丸くする。そして、雄山に「その男にはバターはおろか、パンの味もわかっていない」と指摘され、ショックを受けるのだった。(美味しんぼ42巻より)
山岡と栗田の仲直りに協力
結婚を決めた山岡と栗田だが、「岡星」での会食中、栗田が「究極のメニュー完成には海原雄山の協力が必要」と発言し、山岡が激怒。「結婚を考え直す」と店を出る。
岡星夫人から「心に深い傷を負ったものは頑なになる」「性急すぎる」と指摘され、栗田は我に返るが、仲直りの方法がない。そこで出会ったのは、海原雄山。栗田は「究極のメニューに協力してほしい」「山岡さんと仲直りするための知恵を貸してほしい」と頼み込む。
これに雄山は「失せろ」と激怒し、栗田も諦めて帰ろうとするが、ここで美食倶楽部の中川が引き止め、海原雄山からの伝言として、「『究極のメニューを手伝え』とは身の程知らずも度を超えている。思い知らせてやる」と伝え、「明晩ここに行くように」とメモを渡す。
「身の程知らず」と言われたことに激怒した山岡は、栗田とともに指定の店を訪れる。すると店員は「海原先生からこれを召し上がって頂くようにとのことです」と2つの椀を出す。それは北大路魯山人の「白菜のスープ煮」からヒントを得た「キャベツの吸い物」だった。
山岡はこれを味わい、絶賛。そして帰り道に「悔しいけど今日は海原雄山から教えられた」と改心し、結婚に前向きな姿勢を見せ、2人は仲直りする。
念願叶った栗田から、後日電話でお礼を受けた雄山は「礼を言われる覚えはない。お前と士郎に身の程知らずを思い知らせてやっただけだ」とうそぶいた(美味しんぼ44巻)