『美味しんぼ』富井副部長、ダメキャラなのに愛される理由とは? 失態の数々を検証
漫画『美味しんぼ』の登場人物で、最もトラブルが多く、かつ愛されているのが富井副部長だ。大手の東西新聞社文化部で副部長を務める人物でありながら、どこか抜けていて、いつも周囲に迷惑をかけるダメキャラである。しかし、『美味しんぼ』には、なくてはならない人物でもある。そんな富井副部長の振る舞いを検証しながら、愛される理由に迫ってみたい。
取引先との会食で失態
大韓書籍との共同出版が決まり、同社の金社長を招いた宴を開くことになった東西新聞社文化部。その進行役を任された富井副部長だったが、冒頭から「大韓航空」と社名を間違えてしまう失態を犯す。
緊張が極限に達した富井副部長は何を思ったか、金社長がスピーチを行うなか、おもむろにタバコを取り出し、吸い始める。その後も失態を重ね、金社長を怒らせてしまった。
漫画では「韓国では目上の前でタバコを吸わない」と部下の山岡が指摘したが、一部読者からは「日本でも会食のスピーチ中に1人でタバコを吸うのはありえない」との声が上がる。
しかし「この純粋さこそが富井副部長の魅力」「自分に正直に生きる姿は良い」と見る人もいる。(美味しんぼ5巻より)
人間国宝の絵の写真を左右逆に掲載
東西新聞社・小泉編集局長に呼び出された文化部・谷村部長と富井副部長。2人を前に小泉局長は「どうして絵の写真が裏返しだったことに気が付かなかったんだ」「わが東西新聞社は世間の笑いものだよ」と怒鳴る。どうやら新聞に人間国宝の絵の写真を左右逆にして掲載してしまったようだった。
ここで富井副部長は「その写真を校了したのは私です。全て私の責任です」と謝罪。小泉局長は「もう一度小学校からやり直せ」とブチ切れ、山岡も「キャハハ、ドジ」と嘲笑うなか、富井副部長は一切の責任を自分で負い、とにかく謝る。
尋常ではない落ち込みを見せる富井副部長に、部下たちは「元気だしてくださいよ」「一杯やりましょう」と元気づける。山岡が「部下に酒の一杯も飲ませてやれない給料しかもらってないようじゃ、前途多難」とけしかけると、男気に溢れる富井副部長は「部下におごる給料くらいはある」「ついてこい、とことん飲ませてやる。明るくパーッと行こう」と気持ちを切り替えた。
富井副部長にミスについては「ありえない」という声が多いものの、一切言い訳せず責任を負い、部下たち励まされ、気持ちを切り替えて飲みに連れて行く姿に、管理職者としての能力の高さ(?)を感じた人もいたようだった。(美味しんぼ16巻より)
ふくよかな女性を妊婦と間違う
文化部のメンバーと焼肉店で酒を飲んでいた富井副部長。隣にふくよかな女性が座り「産みの苦しみを味わってくださいよ」と男性が声をかける様子を見て、「やはり子持ちの腹は三段腹ってやつですな。たっぷり栄養つけて元気な子どもを産んでくださいよ」と発言した。
富井副部長の言葉に傷ついた女性は泣きながら席を立つ。単に太っているだけで、妊娠はしていなかったのだ。同席した男性が激怒すると「紛らわしいこと言うほうが悪い」と開き直る富井副部長。しかしこの後、この女性はオペラ歌手で、東西新聞社の企画に参加することになっていたことが発覚する。
企画参加が危ぶまれる事態になり、富井副部長は「ダメだと思うけど誠意だけは示しておきたい」と話し、謝罪に向かう。紆余曲折あり、山岡のとりなしで再度焼肉店にて会うことになった2人。富井副部長は「先日は失礼しました。酩酊しておりまして」と詫びを入れ、女性も自分の振る舞いを謝罪し、一件落着となった。
酔っていたとはいえ、ふくよかな女性を妊娠と誤認し声をかけるのは最低の行動。しかしその後すぐさま謝罪に向かい、誠意を示す富井副部長の姿勢と心は、素直な人間性を表すものだったといえよう。(美味しんぼ72巻)