死んだ恋人との交際、少女が気づいた“家族の呪い”とは? 異色のホラーラブストーリー『青野くんに触りたいから死にたい』

『青野くんに触りたいから死にたい』評

「自分を犠牲にする前に生きてる人間を頼れよ…!」

 自己犠牲に走りがちな優里を守ろうとするのは藤本だけではない。黒青野が優里の体を乗っ取るのを止める方法として、優里の処女性を失わせる選択肢が浮上する。優里が誰かとセックスして処女でなくなれば……そんな可能性が皆の頭によぎった時、美桜ははっきりと否定する。

「優里ちゃんは青野くんが大好きで大好きな子としかセックスできなくてでも青野くんは幽霊でセックスできないから優里ちゃんは誰ともセックスできなくてずっと処女‼︎」

 そんな彼らに囲まれて、優里は少しずつ変化していく。家族のことで青野くんと喧嘩して少し経ったあと、優里は「わたしの家族 やっぱり変なんだと思う」と吐露する。

「青野くんに教えてもらった日から もしかしてうちの家族はちょっと酷いのかなと思ったら じわじわ心に広がって ああ酷いのかもしれないなぁと思ったの」

 自分の傷と向き合い始めた優里は、他人に向ける眼差しも変わっていく。引きこもりで、外に出ることを過度に恐れている美桜。優里たちが助けを求めた時でさえ家から出ることができず、役に立てない、と泣く美桜に、「役に立ってないわけない」と言いかけて、優里はこう言い直す。

「役に立つとか立たないとかどうだっていいんだよ わたし勝手に美桜ちゃんのこと友達だと思ってた!」

 四ツ首様に追い込まれて踏み込んだ不思議な山の中で、幼い青野くんと出会った時もそうだ。僕は逆上がりもできるよ、テストで満点だった、僕のこと好き? と何度も問いかけてくる小さな青野くんに、優里はこう言い聞かせる。

「逆上がりができてもできなくても 漢字テストが満点でも満点じゃなくても 君が好きだよ」

 周りの人にそんな言葉をかけながら、優里は自分自身の今までの行動についても振り返るようになる。そして、自分を犠牲にすること、自分が我慢すればいいのだという考えは、自分を大切に思っている相手を逆に傷つけることにもなるのだと気づいていく。

 「青野くんに触りたいから死にたい」——そんな風にやけっぱちで自傷的だった少女は、自分を傷つけるのではないやり方で、青野くんに近づく方法を模索し始める。黒青野との契約の対価で、黒かった髪は白くなり、瞳も赤くなり、優里は色々なものを失い続けていくけれど、その中で獲得した「自分を傷つけない」という強さは、誰にも奪うことのできないものだ。核心に近づくにつれて物語が残酷さを増していっても、優里の強さが揺るぎない光となって、行く先を照らしている。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129

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