ヨルシカ、YOASOBI、カンザキイオリ……第二次ブーム「ボカロ小説」の特徴は?
第一波と第二波に共通する過剰さ、過激さ
ただ、相通ずる部分もある。
第一波作品では『悪ノ娘』やカゲプロ、『終焉ノ栞』などに典型的なように、中二病的なダークな世界観、悲痛さ、エグさが描かれていた。
『ミカグラ』やハニワ作品、『リンちゃんなう!』などはかわいさが前面に出ているが、それはそれで過剰な情報量と誇張された感情が充満していた。
第二波作品も、『盗作』には雑貨店から母が作ったガラス細工を盗んでは破壊する少年が出てくるし、『あの夏が飽和する。』では家庭内不和、虐待、自殺、殺人が描かれ、『夜に駆ける』収録の作品は、4編あるうちの1編は「夏祭り」ネタだが、ほかは「自殺」「世界の終わり」「出て行った同居人(恋人)」とさわやかさとは縁遠いモチーフで書かれている。
この過剰さ、過激さこそ、主流のJ-POPやアニソンのオルタナティブとして支持者を集めてきたボカロ文化固有のコードだ。
第二波作品もこの点では第一波からの流れを継承している。
だからヨルシカ、YOASOBI、カンザキイオリ作品は、やはり固有のジャンル性を持つ「ボカロ小説」の現在形なのだ。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。