『呪術廻戦』アニメ版は複雑なバトルをどう描く? 「ジャンプ」本誌とコミックスの関係性から考察

『呪術廻戦』アニメ版は複雑バトルどう描く?

 バトルマンガにおいて、作中で術の理屈の設定解説をする演出方法は、少なく見積もっても白土三平の時代から存在していると言われる。

 「週刊少年ジャンプ」連載の芥見下々『呪術廻戦』はこの点から見て個人的に興味深い。

コミックスで本編で書かれない「設定解説」をすることが“前提”となっている作品

最新刊となる『呪術廻戦(13)』

 『呪術廻戦』でも、本編でバトルで用いる術式などの解説は、当然される。特徴的なのは、コミックスを開くと、各話のあいだのいわゆるオマケページにおいて、作中(つまり連載)で拾いきれなかった戦闘シーンの設定解説をよく掲載していることだ。

 この術はこういう理屈であり、こういう動きをしている、AというものとBというものは似ているが全然意味・効果が違う、といったことだ。

 たまに軽く設定をオマケページで補足するくらいならほかの作品でもよく見る。だが『呪術廻戦』はこれが毎巻頻発される。それも「実はこのキャラにはこんなバックグラウンドがありました」といった人物の背景を掘り下げるたぐいの補足ではない。人によっては能力バトルものの根幹とみなすであろう能力設定に関する理屈の解説がコミックスでされている。

 だからコミックスを読まずに連載だけ追っていても、キャラクターの感情は理解できても、登場人物たちが使う能力についての理解は追いつかないかもしれない(正直、私は五条悟の能力がどんなものなのか、コミックスの解説なしではイメージしきれなかったと思う)。

 いや、構造的に言って、本誌連載を読んでさらにコミックスを読んでいる人も、コミックス化される前には何が起こっているのか理解できない部分が少なからずあり、コミックスを読むことで「そういうことだったのか」と補完できる。コミックス派の人も、本編を読んだあとで解説を読んで照らし合わせながら2回以上読むことで意味がわかる部分がある、という作品になっている。

 これはたとえば「『HUNTER×HUNTER』の設定が複雑かつネームの量が多すぎて1回読んだだけでは意味がわからない」といったものとは違う。jBOOKSから刊行される小説版で幕間的なエピソードが描かれる、というものとも違う。

 『呪術廻戦』は本誌連載分だけでは設定が説明されきっておらず、コミックスにアウトソースされているのだから(そもそもマンガ本編に描かれていない、バトルものの能力設定の説明部分を小説版に委ねているケースはおそらく珍しいと思われる。ところで『呪術廻戦』小説版は1冊目に収録されている伊地知のエピソードがほんとうにすばらしいので未読の方にはおすすめしたい)。

 世の中には『ファイブスター物語』のようにマンガ本編とは別に設定資料集が何冊も刊行されている作品もある。だから連載版ですべて説明せずに別の刊行物で設定を補完すること自体は、珍しくはあるが新しくはない。ただそれを「ジャンプ」でやっているのがおもしろい。

「毎話おもしろい」と「コミックスで読みたい」をいかに両立させるか

 週刊マンガ誌連載の少年マンガ、なかでも「ジャンプ」と「マガジン」の連載マンガは、いまや事実上コミックス派向けのマンガを掲載するための書と化している月刊マンガ誌の連載マンガとは異なる。

 連載マンガには「雑誌で最新話を読んでおもしろい」ことと「コミックスでまとめて読んでおもしろい」の両立がいまだ強く求められる。

 言いかえれば「雑誌を買わせる力がある(最新話がいつもおもしろい)」ことと「コミックスを買わせる力がある(まとめて繰り返し読みたいと思わせる)」ことを両立しなければならない。

 ストーリーマンガを毎話おもしろく読ませるには、たとえばクリフハンガー方式で毎話ピンチや謎の人物登場のような「引き」で終わらせるのが古典的な手法として存在する。

 だがこれをやりすぎると、話がなかなか進まない、コミックスで通して読んだときにワンパターンぶりや思わせぶりが気になる(「引き」を受けての展開がたいしたことがないことが連続すると萎える)、といった弊害がある。「コミックスを買うほどの内容じゃないな」と思われてしまうと、作家としても版元としても収入に直結するのでまずい。

 かといってコミックスでまとめて読んだときにおもしろいことを最優先すると、物語の複雑さに比して各話での設定や伏線、登場人物についての説明が少なくなる。雑誌で途中から読んだ人、熱心に追っていない人には何が起こっているのかわからなくなる――雑誌を買わせることには貢献しないマンガになってしまう。

 しかし「ジャンプ」をほかのどのマンガ誌でもない「ジャンプ」たらしめている理由は今なおもっとも売れているマンガ雑誌であること、つまり特別に雑誌を買わせる力を有している点にある。作品と作家の「育成」と「宣伝」をするメディアとしての雑誌の役割を今なお果たし得ている媒体である。

 それに貢献しないマンガばかりになれば、「ジャンプ」のメディアとしての影響力は地に落ち、ブランドは瓦解する。したがってほかのどのマンガ誌よりも「毎話おもしろい」ことへの要求も高くならざるをえない。

 そもそも週刊でマンガを十数ページ連載するという仕事は、才能的にも体力的にもメンタル的にも、相当に限られた人間にしかできない。それに加えて、時として矛盾し、衝突する「雑誌で毎話おもしろい」と「コミックスでまとめて読んでおもしろい」をバランスさせないといけない。

 常識的に考えれば無理ゲーだが、「ジャンプ」連載作品はそれぞれこの点に対する工夫がある。

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