『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』が決定づけた「勇者」の定義とは? ダイとポップの関係性を考察

『ダイの大冒険』が決定づけた勇者の定義

もう一人の勇気の体現者、ポップ

 本作が、勇者が特別な才能を持った存在で、そういう人物の勇気だけを描く作品であったなら、今日ここまでの人気を博していないかもしれない。この作品を語る上で主人公のダイに匹敵する重要人物が相棒の魔法使いポップだ。

 ポップは小さな村の武器屋の息子で、特別な血筋でもなければ才能に秀でているわけでもない。序盤は臆病なお調子者なキャラクターで敵前逃亡することさえあった。連載初期の頃は人気のないキャラクターだったことは有名な話だ。しかし、実際には彼こそが勇気を体現する存在だったのだということが示唆される。

 ポップは何ら特別な才能を持たない平凡な人物だ。そんな人物がなけなしの勇気を絞り出して敵に立ち向かい続け、最終的にはダイを鼓舞するほどの勇気を見せつけることになる。臆病者だったポップを奮い立たせたのは、ニセ勇者一行の魔法使い、まぞっほというキャラクターである。

「勇者とは勇気ある者ッ! そして真の勇気とは打算なきものっ!! 相手の強さによって出したり引っ込めたりするのは本当の勇気じゃなぁいっ!!!(27話)」

 そうして、ポップは震えながら強大な敵に立ち向かう。そして、敵に「成長速度ならダイより上」と言わしめるほどに急成長していく。

 先に勇者は周りに勇気を与える者だと書いた。では、その勇者がくじけた時にだれが勇気を与えられるのか。本作においてそれがポップなのだ。ポップは勇者に勇気を与えられる唯一無二の存在へとなるのである。当時の読者の中には、ダイ以上に等身大の存在であるポップにこそ共感を覚えた人も多かっただろう。

 本作を読むと勇気をもらえるという読者はたくさんいるだろう。勇気を描いた本作はまさに読者にとっての「勇者」のような漫画なのだ。10月3日から放送されるテレビアニメからも存分に勇気をもらってほしい。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』新装彩録版(全25巻)
著者:原作・三条陸/漫画・稲田浩司/監修・堀井雄二
出版社:集英社
【発売日】
1、2、3巻:2020年10月2日
4、5巻:2020年11月4日予定
6、7、8巻:2020年12月4日予定
9、10巻:2021年 1月4日予定
11、12巻:2021年 2月4日予定
13、14、15巻:2021年 3月4日予定
16、17巻:2021年 4月2日予定
18、19、20巻:2021年 5月1日予定あ
21、22巻:2021年 6月4日予定
23、24、25巻:2021年 7月2日予定
※発売日は変更になる場合がございます。
定価:本体650円~850円+税

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