サッカー漫画『GIANT KILLING』人気の理由は? 主人公・達海の圧倒的な魅力を紐解く

『GIANT KILLING』は達海の圧倒的な魅力

 漫画フリークはもちろん、プロのサッカー選手やスポーツライターの間でも話題になっている漫画『GIANT KILLING』をご存知だろうか。

 『GIANT KILLING』は、週刊誌『モーニング』で2007年より連載されているサッカー漫画。その主人公は過去にスター選手として日本代表に名を連ねたものの、プレミアリーグ(イギリス)移籍直後に怪我を負って引退した達海猛(たつみ・たけし)。

 達海はイギリスのアマチュアクラブの指導者として活動しており、物語は彼がチームをFAカップ(プレミアリーグで最も伝統的なカップ戦)でベスト32に導いた場面から始まる(これはとんでもない快挙で、格上に勝つその様はタイトル通りの”GIANT KILLING”なのだ)。

 達海を失ったのちに低迷してしまったクラブである、ETU(East Tokyo United)は達海を監督として招聘し、起死回生を図る。達海に裏切られたことへの反感を隠さないベテラン選手やサポーターとのやり取り。達海のような若手の台頭、チームの躍進などを描きながら、クラブが優勝を目指すのが物語の大筋だ。

 圧倒的なカリスマである達海が低迷するクラブを率い、強豪をバッタバッタとなぎ倒す(それこそがGIANT KILLINGだ)、シンプルなストーリーで各話が間違いなくアツい。だがそれだけではない。この漫画は刊行当初、コアなサッカーファン(それこそスタジアムに足を運ぶような)から絶大な支持を受けた。その理由は、”リアリティ”だ。Jリーグの試合が行われている実際のスタジアムを取材し、観察し細部まで描かれている。サッカー観戦が好きな人たちにとっては普段から見慣れた光景が漫画の中に広がっているわけだ。

 国内リーグ特有のサポーターとの繋がり、クラブの内面、他クラブとの関係性といった、ちょっとマニアックに感じられる部分にも大きなボリュームが割かれているのも特徴的だ。つまり、サッカーというスポーツそのものだけが描かれているのではなく、サッカーという文化を取り巻く人間が描かれている。この点が“サッカー”に興味がある人にはもちろん、”人間の物語”に興味がある人に熱く支持されている理由でもある。

 ”人間模様”が濃厚に描かれる『GIANT KILLING』、各キャラクターの個性は力強く描かれている。中でも、やはり達海は強烈だ。

 彼は高校卒業と同時に一部リーグで戦うETUに攻撃的ミッドフィルダーとして加入し、異例とも言える活躍をする。彼のキャリアは順調で日本代表にも選ばれ、当時の監督には彼を代表の中心に据えることを明言する。それはつまり、サッカーファンのみならず、国民全体からの認知度を得るスタープレイヤーとなったことを示している。

 当時のETUのなかで群を抜いたスターである彼を会長は過剰に売り出し、またそれをよしとしないスタッフとの間には軋轢が生まれる。達海がETUを去ってイングランドに渡った理由の1つはこれだ。

 この時点で達海は25歳であったが、彼の足は疲労によって限界を迎えており、イングランド・プレミアリーグのデビュー戦で故障。それを最後の試合として、現役を引退する。

 引退後は、10年ほどの期間は放浪していた。目標がなくなってしまったからで、その期間の話は詳しくは描かれていない。どん底の生活を送っていた達海だったが、現役時代の代理人に諭され、指導者として復活。そして1巻の時点でイングランド・プレミアリーグ5部のクラブ「FCイーストハム」の監督としてFAカップを戦った。

 FAカップ敗退後にETUのGMである後藤、広報である永田の熱烈な誘いを受けて指導者としてETUに復帰することになる。ETUはこの時どん底の状態で、1部リーグには在籍するものの常に降格の危機にさらされていた。また、事情を知らず達海がクラブを捨てたと思っている選手からは猛烈な反感を受けてしまう。

 しかし達海は若手を積極的に起用し、チームのシステムごと若返りをはかった。リーグスタート時は連敗を喫したが、その後は若手である椿大介の台頭や元キャプテン村越の奮闘もあり、徐々に調子を上げ、優勝争いに加わっていく。

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