尼神インター・誠子が語る、お笑いの力 「ネガティブをプラスに変えられるのもお笑いのいいところ」
イジりはネガティブを前向きに捉えてもいいと教えてくれる愛情表現
——文中から誠子さんが芸人としての自分をすごく大事にしていること、芸人という仕事に誇りを感じていることがひしひしと伝わりました。誠子:本当ですか? 嬉しいです。私、お笑いと出会えた人生でよかったなという思いが根底に強くありますし、芸人になってからは毎日が楽しくなったんですよ。私自身、それこそ両親のことで悲しかった時、何に救われたかというとお笑いやったんですよね。ライブ中、例えばアインシュタイン・稲田さんとパンスト綱引きをしている瞬間は、悲しみを忘れて笑顔になれる。悲しい時に力をくれるお笑いの力、笑いを提供できる芸人っていう仕事って改めてすごいなと思いました。あと、ネガティブをプラスに変えられるのもお笑いのいいところ。この本を読んでもらえばわかりますけど、コロコロチキチキペッパーズのナダルなんて芸人になってなかったらただのヤバいヤツですから(笑)。一般的に見ればヤバいところも笑いになるって、まさに芸人のいいところやなと思います。
——本著の中で大阪では芸人仲間からブスだとイジられていた一方、東京の芸人はかわいいと褒めてくれたというエピソードがありました。
誠子:人との距離の縮め方って、東と西で違いを感じますよね。関西で育った私は東京の後輩からかわいいって言われて逆にイジられてるのかなと思ったので「どこがやねん!」って返したんですけど、「いや、マジで!」って言われてびっくりしました。まぁ、どっちも優しさですよね。関西ではブスっていうことにちゃんと愛情があるし、先輩たちは私のことを思ってイジってくれている。それに、楽屋でのそういったイジりから舞台上でできるノリも作れて、結果、笑いにつながってましたから。
——プロの芸人さんがやっているイジりとは信頼関係があって成り立つ、個性を引き出す手段だということですね。とはいえ、センシティブに捉えられることも多くなった今、イジりそのものが誤解されているなと感じることもあるんじゃないですか?
誠子:たしかにありますよね。“あの人がブスって言った”とか、事実そのものを受け取られてしまうというか。SNSの発達で前後の流れとか言った人の表情とかが伝わらず、ブスって言ったところだけ切り取られて文字にされてしまうことが多々あるので。もちろん闇雲にブスと言ってはいけないんですけど、芸人は本当に触ってはいけないダメなところはイジらない。イジリっていうのは世間でダメやとかネガティブに受け取られがちなものを、ほんまはもっと前向きに捉えてもいいんやでっていうことを示している愛情のある表現なんです。決してイジメじゃない。あなたが気にしていることも、実はあなたの魅力なんだよっていうのを引き出してくれる作業なんですよね。
ほんこんさんにこの本を読んでもらいたい
——誠子さんも、芸人になってイジられることで自分を肯定できたと。誠子:まさにそうですね。お笑いっていう自分が好きだと思えるものを見つけられたこと、そして先輩方にこの容姿が芸人として生きるために必要やと教えてもらったことで、自信がついて。そこからは見て、私の容姿! なんでもかかってこいや!って思えるようになりました。
私たちはありがたいことに芸歴1年目でbaseよしもと(注:大阪・なんばにかつてあった若手の登竜門的劇場)のオーディションに受かって、劇場のレギュラーメンバーになれて。ライブの企画コーナーで先輩方にめちゃくちゃイジってもらえたんです。先輩が何か言ってくれるたびに、私は立ってるだけで笑いが取れる。……私はこんな武器を持ってたんや! コンプレックスやと思ってたことをプロの芸人さんがイジってくれたらこんなに笑ってもらえるんや!ってわかった時、めちゃくちゃ嬉しくなって。そこから笑いになることはなんでもできるようになりましたし、芸人としての自分が好きになってからは自分の容姿も好きになれたんです。
——女性芸人さんも増えてきましたけど、今後の女性芸人としてのあり方について感じることはありますか?
誠子:あり方自体、大きく変わっていくでしょうね。だからこそ、ブスとか美人とか男とか女とか関係なく、よりパーソナルな部分を表現していきたいなと。ネタを書くにあたって、渚と2人、面白いと思っていることをより濃くダイレクトに出すことが尼神インターらしさにつながっていくんじゃないですかね。あと、時代が変わっている時って新しいものを生み出せるタイミングやと思うんですよ。だから、自分たちがわくわくできる新しくて楽しい笑いを生み出せるようにチャレンジしていきたいなと思いますね。
——では最後に、改めてこの本をどんな人に読んでいただきたいですか?
誠子:ネガティブとかコンプレックスを抱く方、特に女性に読んでいただきたいなと。この本はブスって言われていた私自身に特化した内容ですけど、それぞれのコンプレックスをポジティブに考えるきっかけになれたら嬉しいですね。あと、ほんこんさんには読んでもらいたいなと思ってます。ほんこんさんとはほんまのお父さん、親子みたいな関係なので、面と向かって改めて「いつもありがとうございます」って言いづらいんです。けど、本の中には日頃の感謝を素直に書くことができたので、本を渡したいですね。
■書籍情報
『B あなたのおかげで今の私があります』
著者:尼神インター 狩野誠子
出版社:KADOKAWA
定価:1,300円(税抜)