『僕のヒーローアカデミア』は正義を描ききれるか? 物語はさらにダークサイドへ
ここにきてオールマイトの個性を継承したヒーローのデクと、オール・フォー・ワンの個性を継承したヴィランの死柄木の直接対決へと物語は向かっており、今後は死柄木を迎え撃つデクたちに視点が戻るのではないかと思われる。
しかし、作者の関心は明らかにヴィランへと向かっているため、うまく物語をヒーローサイドに引き戻せるのか心配である。死柄木が、強すぎる個性「崩壊」をコントロールできないように、作者もヴィランの暗い魅力に引っ張られて、作品をコントロールできなくなっているように見えてしまう。
個人的には今の展開は嫌いではない。ストーリーはもちろんのこと、絵の魅力も最高潮に高まっており、漫画としてとても面白いのだが、ここまで積み上げてきた『ヒロアカ』の世界が壊れてしまうのではないかと心配になる。
大人の読者としては、品行方正な正義のヒーローたちの活躍よりも、世界に反旗を翻す悪のヴィランたちに感情移入してしまう気持ちはわからないでもない。しかし、たとえ綺麗事だとしても、堀越耕平には正義の味方としてのヒーローが社会の平和を守ろうとする姿を前向きに描くことを放棄しないでほしい。ヴィランが持つ暗い魅力をここまで追求したからこそ、それを超える正義のヒーローの魅力を正面から描ききってほしいのだ。それこそが少年漫画のど真ん中を邁進している作者の役割だと思うのだが、果たしてどうなるものか?
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『僕のヒーローアカデミア』(ジャンプコミックス)既刊28巻
著者:堀越耕平
出版社:集英社
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