ブレイク寸前『呪術廻戦』の複雑バトルは『HUNTER×HUNTER』の発展系? “過剰な解説”の面白さ

ブレイク寸前『呪術廻戦』の魅力

 赤血操術を封じた虎杖は勝利を確信するが、水に濡らさないようにして凝固圧縮した血液の塊を脹相が放ち、虎杖の肝臓に貫く。死を覚悟した虎杖は、せめて足止めのためにと脹相に戦いを挑むが激しい格闘の末、ついに意識を失ってしまう。とどめを刺そうとする脹相。しかし突如、脹相の脳内に「存在しない記憶」が溢れ出す。

 脹相たち三兄弟が虎杖と楽しそうに食事する場面を幻視した脹相が混乱する隙に、虎杖は夏油傑に付き従っていた双子の少女、菜々子と美々子に連れ去られる。

 この「存在しない記憶」が溢れ出すという場面は、本誌掲載時に大きな反響を呼んだ。実は7巻(第35話)で、京都呪術高専三年の東堂葵が虎杖と戦った際にも同じことが起きていた。

 東堂が「女の好み」を聞いた際に虎杖が「尻と身長のデカい女の子」と答えると、東堂の中に虎杖と同じ学園生活を過ごす「存在しない記憶」が溢れ出したのだ。この時は(同じ好みの)虎杖に好感を持った東堂が見た妄想だと、多くの読者は理解した。しかし、脹相にも「存在しない記憶」が溢れ出したとなると、話は違ってくる。

 直前に(虎杖の中にいる)宿儺が「下らん」「この程度の下奴に負けるとは」といった後「……?」という疑問符が入るため、おそらく宿儺の力ではないのだろう。

 元々、虎杖には、宿儺の力の宿った指を体内に取り込んでも自我を保てるという呪力に対する強い耐性があった。それは偶然備わっていた特異体質として描かれていたのだが、虎杖に「存在しない記憶」を植え付ける力があるのだとすれば、彼は一体何者なのか? 謎は深まるばかりだ。

 それにしても「存在しない記憶」というのは、実にキャッチーなアイデアである。便利な能力なので、今後いろんなところでパロディのネタにされそうだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『呪術廻戦』(ジャンプ・コミックス)既刊12巻発売中
著者:芥見下々
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/jujutsu.html

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