『チェンソーマン』圧巻のスピード感と“絵”の力 救いのない物語はさらにヤバい世界へ
巻を重ねるごとに面白さが加速する藤本タツキの『チェンソーマン』(集英社)。悪魔が跋扈する世界を舞台にした本作は、チェンソーの悪魔と融合した少年・デンジが公安のデビルハンターとして悪魔や魔人(人間の死体に乗り移った悪魔)と戦う姿を描いたオカルトアクションバトル漫画だ。
『週刊少年ジャンプ』での連載は、大きな山を超えてクライマックスへ向かう直前といった印象だが、次の瞬間に何が起こるのか予測不能な作品であるため、突然、登場人物が全員死んで、最終回となってもおかしくない。だが一方で、その場のノリで行き当たりばったりで描いているように見えた物語の裏に、細かい伏線が張り巡らされていたこともわかってきた。
あらためて第1巻から読み直すと、作者には描きたい物語は明確にあり、そこに向かって無駄なく突き進んでいるように見える。何より漫画としてのコマ運びが圧倒的にうまい。特にこの第8巻は全編見せ場とでもいうようなキレッキレの演出を見せている。
※以下、ネタバレあり
物語は引き続き、デンジを狙う世界各国から派遣されたデビルハンターと公安のデビルハンターの敵味方入り乱れた激しい戦いが繰り広げられる。
デパートの中で、クァンシ率いる中国からの刺客と戦う岸辺たちデビルハンターは、デンジを守りながら一進一退の攻防を繰り広げる。しかし逃走する中で、デンジは釘を踏んでしまい、刺客のトーリカが仕掛けた(釘で4回さすことが発動条件の)「呪いの悪魔」の攻撃を受ける。意識を失うデンジの前に現れるトーリカと師匠。「あなたはもう立派なデビルハンターです」と師匠はトーリカを称賛するが、その後、彼の意識を奪う。
そして、人間を人形に変えるサンタクロースと思われる老人がデパートにやってくる。老人は手を刃物に変えて自分の胸を貫き、自分の命と三人の子供を生贄に捧げ「地獄の悪魔」に「このデパートにいる全ての生物を地獄へ招いてください」と言う。老人と師匠が同じ台詞を言った後、子供と老人の死ぬ姿が描かれ、デパートの中は真っ暗になる。そして空から現れた巨大な手がデパートを掴むと、デンジたちは地獄へと引きずり込まれる。
言葉で説明しても意味がわからないかもしれない。実際、本編を読んでいても、突然のことで、何が起こったのかわからなくなるのだが、だからこそ地獄に引きずり込まれた恐怖が伝わってくる。