幸福なオタクライフが、ここにある 『マキとマミ ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』完結に寄せて

オタク必読書『マキとマミ』完結に寄せて

 マミに誘われて、初めて同人イベントに行くことにしたマキ。彼女はMAKI名義で、ツイッターでジャンルについての発言や考察をしていたが、自ジャンルの人たちとの交流はない。一方、マミのツイートにより、MAKIが来ると知ったジャンルの人々がざわつく。というのも、熱いツイートだけで、イベントに顔を出さない謎の人として有名だったのだ。この設定だけで、「こういう人、いるよなー」と思い、ついニヤニヤしてしまうのである。なんというか、本当にオタクのことを分かっている漫画なのだ。

 さらに読み進めていくと、作品の狙いが見えてくる。注目すべきは、マキとマミのキャラクターだ。ひとつのジャンルを、とことん突き詰めるタイプのマキは、他人に自分の好きなことをいえない、孤独なオタクであった。学や透の存在があるので、完全な孤独ではないが、これは話を重くしないための配慮だろう。

 一方のマミは、『どき☆ジェネ』が一番好きだが、その他にも、いろいろなジャンルに手を出している。またポジティブな性格で、すぐに他人と親しくなれる。そんなマミに導かれてマキは、オタクの世界の新たな楽しさを知っていく。ここで生きてくるのが、マキとマミの九歳という年齢差だ。オタクが肯定的に受け入れられるようになったのは、それほど昔のことではない。マキが若い頃は、まだ世間から理解されず、隠すべきものという空気が強かった。私も体験しているので、リアルに納得できる。

 それに対してマミは高校生の頃から、オタクが肯定的に受け入れられるようになった空気の中で生きてきた。もちろん、ふたり性格の違いもあるのだが、年齢差によって別々の時代のオタクが、巧みに表現されているのだ。

 この点を踏まえて、あらためて作品の狙いを考えたい。第4巻の「あとがき」で作者は、「常に抱えていたテーマは『許し』」といっている。自分の好きなものを周囲に隠し、同好の士の輪にも入れないでいたマキ。彼女はマミとの出会いにより、自分を縛りつけていた過去から解放される。そのことを明確に示した第三十七話「世間とオタクと私」のラストでマキはマミに、「好きなものを貫いていてくれる人っていうのは それだけで大きな安心と救いになるの」というのだ。マミと友達になったことで、マキはオタクである自分を許せるようになったのである。積み重ねられた物語は、ここに至るために必要だったのだろう。ジャンルを問わず、オタクならば本書を手に取ってほしい。幸福なオタクライフが、ここにあるのだから。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』4巻完結
著者:町田粥
出版社:KADOKAWA
定価:本体970円+税
発売日:2020年7月29日
出版社4巻商品ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322003001110/

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