『鬼滅の刃』最強の剣士、悲鳴嶼行冥の弱点とは? 竈門兄妹との出会いが変えた心

『鬼滅の刃』悲鳴嶼行冥の弱点とは?

炭治郎との和解

 この“事件”により悲鳴嶼は逮捕されるが(鬼の身体は消失し、寺には子供たちの遺体しか残っていなかったため)、彼の無罪を知っていた産屋敷に助けられる。だが、このときに経験した子供たちのさまざまな裏切り行為は、彼の心のしこりとなってその後も消えることはなかった。

 それゆえ、彼は「子供」である本作の主人公、竈門炭治郎と妹の禰豆子に対しても、最初はあまり良い印象を抱かない。それどころか、「なんという みすぼらしい子供だ 可哀想に 生まれて来たこと自体が 可哀想だ」とまでいう。これは、痣のある炭治郎がボロボロに傷ついており、禰豆子が鬼[注]だから、ということ以前に、悲鳴嶼の中にある「子供への不信感」がいわせた言葉ではないだろうか。そう、炭治郎はたしかにお館様が認めている剣士かもしれないが、「子供だから」この少年はいつか鬼殺隊を裏切るかもしれない。そんな疑念が悲鳴嶼の中になかったとはいえないだろう。

[注]禰豆子は鬼に襲われて以来、鬼化しているのだが、兄を助けて鬼と戦っている。

 だが、のちに刀鍛冶の里で人々を守った禰豆子の決断と、炭治郎の正直な心を知り、悲鳴嶼は考えを改める。あくまでも「子供というのは 純粋無垢で 弱く すぐ嘘をつき 残酷なことを平気でする 我欲の塊だ」としながらも、「この子供(炭治郎)は違う…」と思うようになるのだ。

 なお、この“和解”からあまり時を経ずして、鬼殺隊と上弦の鬼との最終決戦が始まるのだが、竈門兄妹との出会いがもたらした悲鳴嶼の心の変化があったのとなかったのとでは、彼が壮絶な死闘の果てに視る景色はまったく違うものになっていたかもしれない。

 物語の終盤――上弦の鬼、そして宿敵・鬼舞辻󠄀無惨との戦いを終え、瀕死の重傷を負った悲鳴嶼の前に、寺で死んだ子供たちの幻が現れる。「先生 あの日のことを 私たちずっと 謝りたかったの」。そして彼らはあのとき、自分たちが決して逃げようとしたわけではなかったのだということを伝え、すべてを理解した悲鳴嶼は微笑みながらこういうのだ。「そうか… ありがとう… じゃあ行こう… 皆で… 行こう…」。それは、いつも眉間に皺(しわ)を寄せている厳つい「岩柱」が初めて人前で見せた、こぼれるような優しい笑顔だった。きっと彼の魂は、愛する子供たちと一緒に懐かしいあの場所へと還っていくのだろう。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『鬼滅の刃(15)』
吾峠呼世晴 著
価格:440円(本体)+税
出版社:集英社
公式サイト

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