桂正和『I"s』は伊織との疑似恋愛を体験させてくれた 一人称視点の純愛物語に共感
荒みきった心を浄化してくれるような感覚
ただ、最終的にはどんなことがあっても4年間変わらなかった、一貴の伊織に対する思い、好きな人を幸せにしたい、好きな人といっしょに幸せになりたいという夢は実を結ぶことになる。大人になってからラストシーンを見ると、「いや、一貴。お前これから将来どーするんだよ。幸せにするって口では言っても、プータローじゃすぐ見限られるぞ? 世の中はそんなに甘くない」とは思っちゃうけど、少年誌なのだから、このきれいな未来のある結末で良いのである。一貴は伊織のためならどんなことでもするだろうし、伊織もまた、どんな状況でも一貴のそばにいるのだろう。
いま自分がいいオッサンになってから『I"s』を読み返すと、一貴の青臭さには辟易とするところもあるが、読み終えた後は三島由紀夫の『潮騒』にも似た読後感、年齢を経て失ってしまった何かを思い出させ、荒みきった心を浄化してくれるような感覚を覚えた。
■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。
■書籍情報
『I"s(1)』
桂正和 著
価格:本体720円+税
出版社:集英社文庫
公式サイト