『鬼滅の刃』鬼舞辻無惨、悪役史に残る問題発言を考察 “大人の正論”に込められた欺瞞

『鬼滅の刃』無惨は“悪役”を変えるか

 そんな無惨に対し、鬼殺隊は一丸となって戦いを挑むのだが、ここで重要なのが、末端の隊士たちの描かれ方だ。地上(市街地)に排出された無惨を夜明けまで足止めして太陽の光で倒すために、秒単位で壮絶な戦いが繰り広げられる中、隊士たちが「肉の壁」となって柱を助けようとする姿は壮観で、富岡に名前を呼ばれて、炭治郎の手当を頼まれた隊士の村田が「俺の名前覚えてたんだ富岡…」と泣きながら思う場面には、作者の人間観がよく現れている。

 その一方で、始まりの呼吸の戦士・継国縁壱が、無惨討伐に失敗し、珠世を逃し、兄が鬼(黒死牟)になったことを責められ、仲間から追放される過去が、炭治郎が見る走馬灯として挟み込まれており、組織の良さだけでなく暗黒面も、重層的に描いている。

 矢継ぎ早に挟み込まれるエピソードはどれも傑作で、クライマックスに向けてテーマが一気に深まっていくのを感じる。連載時にも感じたが、単行本で読んでも見事な構成である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『鬼滅の刃』既刊21巻
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/

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