科学者のイメージ変えた『Dr.STONE』の功績 壮大なスケールの物語はいよいよ佳境へ

科学者のイメージ変えた『Dr.STONE』の功績

 『Dr.STONE』には様々な功績があるのだが、一番の功績は、フィクションではどちらかというと冷たい悪役、良くて脇役として描かれていた科学者のイメージを大きく変えたことだろう。

 主人公の千空は知識とアイデアと瞬時の計算で困難を乗り込えていく頭脳派だが、科学のことになると好奇心全開ではしゃぐ子どもっぽい明るさがある。頭のいい理系キャラでありながら少年漫画(もしくはキッズ漫画)の主人公らしい熱血漢というキャラクターは今までになかった存在で、千空の前向きなスタンスは読むものに元気を与える。

 最後にイバラを倒し、石化装置を手に入れた千空が「今度は」「一人じゃねえ」と言う場面でみせる表情には憂いがあり、科学至上主義のマッドサイエンティストでありながら、努力・友情・勝利をしっかりと押さえたジャンプド真ん中の主人公なのだと、改めて思った。

 宝島編を終えて物語はいよいよ佳境に突入。ホワイマンの通信を逆探知した千空は、彼が月面にいることを知る。かつて戦った霊長類最強の高校生・獅子王司を復活させた千空は月に向かうために宇宙船を造ることと発案。そのために「世界中で石像復活させまくって」「世界各地に」「新しい街を造る!!」と宣言し、アメリカ大陸を目指すことになる。

 随分と気が遠くなる話だが、目的のためのロードマップを細かく設定し、一つ一つ順番にクリアしていくことを楽しく見せる姿こそ『Dr.STONE』の醍醐味だろう。ハッタリの効いた熱血と理知的思考が同居した稀有な少年漫画である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『Dr.STONE』既刊16巻(ジャンプコミックス) 原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

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