『かぐや様は告らせたい』石上優は“裏主人公”だった? 王道的な成長譚を読む

 両片想いの二人による「いかにして相手から告白させるか?」の頭脳戦を描いたラブコメディ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』。秀知院学園の生徒会長・白銀御行と副会長の四宮かぐやとの恋模様を中心に展開されるこの作品、実はヒロインが四宮かぐやではなく藤原千花である、ということを前回述べた(参照:『かぐや様は告らせたい』真のヒロインは藤原書記だった?)が、本作にはさらに、「裏主人公」も存在する。今回はその、裏主人公である生徒会会計・石上優について紐解いていく。

※以下、ネタバレあり。

 石上優は白銀達の一つ下の学年で、白銀のスカウトで生徒会に加入した。いつもヘッドホンを首から下げており、髪は顔を半分隠す長髪。陰気な見た目の通り、元引きこもりという過去がある。

 生徒会会計としては優秀な人材で、データ処理のエキスパートで観察眼にも優れており、人の本心を見抜くのが得意。だが、言葉選びが不器用すぎるせいで、言わなくてもいいことを口にし、四宮や藤原の地雷をよく踏み抜く。特に、余計な指摘をして(結果的に)四宮の策略の邪魔をすることが多々あるため、よく四宮から殺意のこもった眼を向けられている。

 不憫な立ち位置になることは多いものの、生徒会メンバーの中でポジションを確立している石上。だが、石上が過去に「何か」をやらかしたせいで同学年からははれもの扱いされているらしいことは、物語の序盤から匂わされている。実際、石上を見て周囲の生徒がひそひそと噂話をするシーンが時々差しはさまれる。

 石上がやらかした「何か」。それは中等部時代、石上が意中の女子にストーカー行為を働いた上に、彼女の交際相手に暴行した、というものだ。それは、石上の同学年なら誰もが知っている「噂」であり、その結果石上は停学処分になり、その後引きこもりになった。だがその噂には、まったく異なる真実がある。

 石上がストーカーしたと言われている女子生徒・大友京子。大友の交際相手だったクラスメイトは、実は彼女を陥れて危害を加えようとする下衆男だった。偶然それを知った石上は、大友を守るために男を殴りつけたのだが、逆に加害者に仕立て上げられ、そのまま停学処分に追い込まれる。誰にも真実を話すことができず、反省文を書くことも拒み、石上は心を閉ざして引きこもるようになる。髪を伸ばしたのもこの頃だ。

 石上の過去編エピソードには「そして、石上優は目を閉じた」というシリーズ名がついている。顔が見えないように髪を伸ばし、誹謗中傷が聴こえないようにヘッドホンをつける。敵だらけの現実から身を守るために、文字通り石上は「目を閉じた」のだ。

 引きこもる石上のもとに、ある日訪れたのが白銀だった。四宮や藤原の力を借り、真実を突き止めた白銀は言う。「頑張ったな石上」

 そして、石上がどうしても書けなかった白紙の反省文に、白銀は力強く“うるせえバァカ‼”と殴り書く。

“一人でもわかってくれる人がいるなら 周りにどう思われてもいいかな”

 そうして石上は、白銀のスカウトを受けて生徒会に加入したのだった。

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