『かぐや様は告らせたい』石上優は“裏主人公”だった? 王道的な成長譚を読む

 時を経てやってきた体育祭で、石上は自分を変えようと応援団に加入。リア充集団である応援団は石上には居心地が悪く、その心象を表すように、応援団メンバーの顔はトーンでぼかされて、はっきり見ることができない。しかも体育祭当日、石上の前に大友京子が現れる。

 真実を知らない大友は未だに石上のことを恨んでいて、「全部アンタのせいだ‼」となじる。かつての石上なら、真に受けて傷ついていただろう。だが今の石上は違う。「うるせぇばーか」そう言い捨てて、大友とともに過去を振り払い、走り出す。

 リレーのアンカーを走り切った石上を迎えたのは、応援団のメンバーだった。「良い走りだったぞ」「優くん」ずっと応援団メンバーの顔を覆っていたトーンがそこでようやく剥がれ、石上は初めてその顔をしっかりと見る。そこにあったのは、石上を見つめるいくつもの温かい表情だった。

“見ようとしてなかったのは僕だ”

“ちゃんと見るだけで、こんなに風景は変わるのか”

 こうして、石上優は完全に「目を開ける」。

 過去の挫折で心を閉ざした少年が、周りに助けられながら前を向く。とても主人公らしい道のりではないだろうか。白銀と四宮の二人の主人公と対比する形で「裏」と設定されているけれども、この作品は紛れもなく「石上優」の物語でもある。体育祭を経て成長し、今度は初恋、そしてややこしい三角関係を展開させる石上優がどうなっていくのか、裏と言わず真正面から楽しみたい。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ
Twitter(@erio0129

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