傷を抱えた中年男性と猫、辿りついた「幸せの形」とはーー涙なしには読めない『おじさまと猫』
「かわいい」に隠された動物の現状がここに
本作はハートフルなストーリー展開だからこそ、時折描かれる動物を取り巻く悲しい現状が胸に響く。例えば、生後間もなく母猫であるママさんやきょうだい猫たちと引き離されたふくまるの涙を見ると、動物の心よりも利益を優先する今のペット業界の在り方に疑問を抱く。また、ペット禁止のマンションに引っ越すから愛猫がいらなくなったと簡単に命を破棄しようとする人間の冷たさには強い憤りを感じる。
これは決してフィクションではなく、日本のどこかで今この瞬間にも起こっていること。本作はただ感動を与えるだけでなく、動物の命を守ることや最期まで共に生きることの大切さも訴えかけているからこそ、これほどまでに熱い支持を得る作品となっているのだ。
なお、最新刊ではふくまるが外へ出てしまい、迷子に……!家に帰る道を探すふくまると、必死に愛猫を探すおじさまの姿に感動すると共に、室内飼いの猫が外で生き抜くことの難しさを痛感させられ、自分にできる命の守り方を改めて考えたくなる。
綺麗ごとだけでは語れない「動物を取り巻く世界」を丁寧に描きつつ、人間と動物は言葉がなくても繋がり合えることができると教えてくれる本作。これは、猫好きの桜井氏だからこそ描けた“心の処方箋本”でもある。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『おじさまと猫』(ガンガンコミックスpixiv)既刊5巻
著者:桜井海
出版社:スクウェア・エニックス
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