思春期の男女の“痛々しさ”を浮き彫りにーー志村貴子『ビューティフル・エブリデイ』が突きつける黒歴史

『ビューティフル・エブリデイ』書評

 その中で、読者は1話だけ見ると憎たらしく思える光一や美咲がどんどん可愛く見えてくるだろう。例えば、光一はイケメンにもかかわらず、先のエピソードのように無神経で、性欲だけで生きているような高校生だ。さらには、以前好きになった女の子に友達を使って話しかけたり、花琳に彼氏がいることが発覚して学校をズル休みするような少しカッコ悪い一面も。しかし、そんな光一はどこか憎めなくて、自分にも心当たりがあるようなエピソードの数々に気恥ずかしさを覚える。

 他にも、美咲が夢であるアイドルとしての未来を見据えて振る舞う場面や、大地が小学生の頃、こっそり絵のモデルにした同級生から「冨田くんはすごいと思う。でももう見るのやめてね」と言われたエピソードなど、若さが生んだ“黒歴史”が細かく描かれているのが特徴だ。

 志村の作品で、近日劇場版アニメとして公開が予定されている『どうにかなる日々』、アニメ化もされた『青い花』や『放浪息子』などと同様、大地が幽霊となって登場したり、花琳の同級生である綾乃が密かに彼女に恋していたりと、志村ファンにとっては堪らない展開の数々が待ち受けている。

 ひとつひとつのエピソードは、他人にとって取るに足らないものかもしれない。けれど、よく目を凝らして見ると傷つき、傷つけながら誰かを思う若者の姿がそこにある。私たちは恥ずかしさで過去の自分から目を逸らしてしまいがちだが、『ビューティフル・エブリデイ』の登場人物を通して、一生懸命だったあの頃の自分に想いを馳せてみてはどうだろうか。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico

■書籍情報
『ビューティフル・エブリデイ』(フィールコミックス)既刊2巻
著者:志村貴子
出版社:祥伝社
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396767365

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