電子書籍と紙の書籍、脳への影響はどう異なる? 「深い読み」を身につけるために必要なこと
一方で、デジタル機器にまったく触れさせなくていい、ということでもない。本との接触が多い子どもと少ない子どもを比較すると持っている語彙が異なるのと同じように、デジタル機器やコンピュータとの接触が少ない子どもはキーボードの扱いに苦労し、コンピュータベースのテストで自分の考えを記す練習量がはるかに少ないことも明らかになっているからだ。
え、じゃあデジタル機器では何をさせたらいいの? さっきはダメって言ってたじゃん、という疑問を持つはずだ。メアリアン・ウルフは、プログラミングやアート、音楽制作などの創造スキルを学ぶための遊び場として使うのがいい、と言う。いわゆるSTAEM学習である。
なぜか? こういうことをやっていく過程で、デジタル読字の弱点である「順序づけ」が重要だと自然に理解するようになるからだ。たとえば「スクラッチ」などでプログラミングを学ぶと、順序づけが大事だいうことが強調される。プログラミングにしろ、作曲やお絵かきにしろ、手順や全体像を意識しないで取り組むことは難しい。
それから、デジタル機器で字を読んだりするときも、大人が子どもに対して、スピードではなく意味を求めて読むことの重要性を意識的に教えなさい、と言う。話の筋の順序や伏線を確認し、「どんな内容だった?」と記憶を詳しく話してもらうことで、斜め読みを避けること、自分の理解をチェックする習慣を付けることを推奨している。
この本は第4章から読めばOK
このように読み聞かせとデジタル機器を使った学びを組み合わせることで、メール処理には速くて「軽い読み」のモードを使い、もっと複雑な素材を処理するときには文章をプリントアウトして「深い読み」のモードを切り替えて使うといったような「バイリテラシー脳」を発達させることが必要だ、とウルフは説く。
子どもがまだ幼い段階からデジタル学習と画面読みの適切な使い方を教えないと、次世代の「深い読み」習得は危うくなる、という警鐘が本書のもっとも重要なメッセージだろう。
ところで、飛ばし読みをまったく推奨していないこの本に対して失礼は承知ながら、「第一の手紙」から「第九の手紙」までの全9章構成になっているうち、「第三の手紙」までは読まなくていい(第四の手紙から第九の手紙まで読んだあとで興味があれば戻って読めばいい)。
第一~第三の手紙までは、脳科学の非常に専門的な議論が展開されるうえ、第四の手紙以降を読まないと「なんでこの話を今しているの?」ということがなかなか理解できない。そのため、せっかく第四の手紙以降で興味深いエピソードや議論が展開していくのに、序盤で脱落してしまう可能性が高い。
ぜひ第四の手紙以降を、斜め読みも飛ばし読みもせず、じっくりと熟読してもらいたい。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。
■書籍情報
『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳 「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる』
メアリアン・ウルフ 著
大田直子 訳
価格:2200円+税
発行:インターシフト