『アシュラ』『銭ゲバ』『浮浪雲』……ジョージ秋山が遺した“漫画らしさ”のかたち
こういった、多数の問題作を描いた後、『浮浪雲』を連載するのだが、この問題作を連発していた70年代初頭がジョージ秋山の絶頂期と言えるだろう。その後は『浮浪雲』を連載する傍ら、『ピンクのカーテン』や『恋子の毎日』といった映像化された作品や、動物のキャラクターを主人公にして暴力と性を描いた『ラブリン・モンロー』、文学性の高い『捨てがたき人々』といった作品を生み出すのだが、興味深いのが『くどき屋ジョー』から生まれた悪役・毒薬仁(どくぐすり じん)が登場する一連の作品。
毒薬は女にモテないブサイクなヤクザで「オリ(俺)の名前を言ってみろ」が口グセ。品がなく粗暴で、金と暴力ですぐに女を支配しようとするが、そんな生き方に時々虚しさを感じては「海を見に行く」という『銭ゲバ』の風太郎をコミカルにしたような小悪党。読者の間で大人気となり、次々と他の作品に悪役として登場するようになる不思議な男だ。そしてついに『スンズクの帝王 オリは毒薬』で、主役を張ることになるのだが、この毒薬こそがジョージ秋山が生み出した最高のキャラクターだったと言えよう。
最後に、個人的に一番好きな作品が2002~05年に描かれた『WHO are YOU 中年ジョージ秋山物語』。連載時は秋山勇二名義で描かれていたため『告白』のような作品になるかと思われたが、中年漫画家の日常を、虚実を交えて描いた飄々とした漫画である。後半になると『銭ゲバ』の風太郎や毒薬といった漫画のキャラクターが登場してジョージ秋山と対話するという異常な展開になるのだが、愛嬌のある作品で、何度も読み返している。
晩年になるほど哲学性、文学性、宗教性を内包した作家性が評価されるようになったジョージ秋山だが、多作ゆえに、行き当たりばったりの展開で進み、ぶん投げるように終わった作品も多かった。しかしそれも含めた“漫画らしさ”を最後まで手放さなかったことこそが、彼の漫画の魅力だったと言える。今は、毒薬を含めた全てのキャラクターを愛おしく思う。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。