文明が滅んだ地球で“普通のおじさん”がサバイバル? 『望郷太郎』が描く、ディストピアSFの新地平

おじさん×ディストピア漫画『望郷太郎』

 漫画雑誌『モーニング』(講談社)で連載されている山田芳裕の『望郷太郎』は大寒波の影響で文明が滅んだ地球を舞台にしたサバイバル漫画だ。

 主人公は中年男性の舞鶴太郎。舞鶴グループ創業家の七代目で舞鶴通商イラク支社長の太郎は、妻の美佐子と息子の光太郎とともに会社にある地下シェルターに避難する。 天候が回復するまで1カ月ほどコールドスリープするつもりだった太郎だが、目を覚ますと既に500年の歳月が過ぎていた。妻と息子が入っていた冷凍睡眠装置の電源はすでに止まっており、2人は絶命。1人生き残った太郎は絶望して自殺を試みるが、東京に残った長女の恵美の写真を見て思い止まり「せめて恵美や親父たちのその後を知って死んでやる」と日本目指して旅立つ。

 まずはイランのバスラからカスピ海に向かい、そこからシベリア鉄道を目指す太郎。しかし外に人影は全く無い。しかも川の水を飲んで下痢になってしまい、シェルターから持ってきたフリーズドライの保存食もすぐに尽きる。野良動物を捕まえることもできず、やがて力尽きて倒れる太郎。そこに馬に乗って旅する2人の男・パルとミトが通りかかり、太郎を助ける……。

 と、ここまでが第2話までの流れなのだが、本作は舞鶴太郎の視点を通して、500年後の文明が崩壊した世界を丁寧に見せていく。そして、食べ物はどうするのか? 衣類はどうするのか? といった問題をひとつひとつ順番に描いてくれるため、太郎といっしょに旅をしているような気持ちになれるのが本作の面白さだ。

 作者の山田芳裕は、十種競技を題材にしたスポーツ漫画『デカスロン』(小学館)や火星探査を題材にしたSF漫画『度胸星』(小学館)、そして『望郷太郎』と同じ「モーニング」で連載された古田織部を主役に戦国時代を舞台にした『へうげもの』(講談社)といった作品で知られるベテラン漫画家で、新作の度にジャンルを変える幅広い作風の持ち主だ。

 どの作品でも印象に残るのは、大胆な誇張と太い輪郭線で描かれる個性的なキャラクターたち。『望郷太郎』は過去作に比べると絵は抑制気味で、文明崩壊後の世界を描くことに尽力しているが、時々見せるデフォルメの効いた愛嬌のある表情は、山田の絵ならではの魅力である。

 本作はいわゆるディストピアSF。文明が崩壊した世界を旅するサバイバルモノは漫画では定番のジャンルで、過去に多くの名作が描かれてきた。70年代なら、さいとう・たかをの『サバイバル』(リイド社)、90年代なら望月峯太郎の『ドラゴンヘッド』(講談社)、2010年代ならゾンビモノの体で描かれた花沢健吾の『アイアムアヒーロー』(小学館)がその筆頭だろう。現在、『週刊少年ジャンプ』で連載中の原作:稲垣理一郎、作画:Boichiの『Dr.STONE』(集英社)も同じジャンルの作品だと言える。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる