『鬼滅の刃』のテーマとはなんだったのか? 炭治郎が伝えたメッセージから読み解く

『鬼滅の刃』台詞に込められた主題

 炭治郎と禰豆子を筆頭に本作では、弟(妹)を守る兄(姉)というモチーフが繰り返し描かれている。不死川実弥が表向きは玄弥にキツく当っていたが、本当は弟を守ろうとしていたという態度にしても同様で、だからこそ玄弥は、そんな兄のために最後の力を振り絞る。

 兄弟だけでなく、子供を守ろうとする親、弟子を守るとする師匠といった、目上の存在が一番弱い年下の存在を守ろうとする姿を『鬼滅の刃』は描き続けており、その美学が自分の想いを下の世代に継承していく鬼滅隊の在り方へと繋がっていく。

 対して鬼たちは、頂点に君臨する鬼舞辻無惨を筆頭に、徹底した個人主義者で仲間意識が薄い。兄弟の鬼も登場するが、いがみ合っていることがほとんどである。黒死牟も弟の縁壱に対する激しい嫉妬心を抱えており、彼に対するコンプレックスが永遠の生を生きる鬼としての道を選ばせた。

 自分たちに匹敵する実力者がいないため、呼吸術の継承ができずに極めた技が途絶えてしまうことを恐れる黒死牟に対して縁壱は、「私たちはそれ程大そうなものではない」「長い長い人の歴史のほんの一欠片」と言う。

 やがて緑壱は自分の理想を未来の子供たちに託すことを選び、それが鬼滅隊の結成につながっていく。黒死牟と緑壱の別離は、そのまま鬼と鬼滅隊の分岐だった。つまり鬼と鬼殺隊の関係こそが「兄弟」みたいなものだと言えよう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『鬼滅の刃』既刊20巻
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/

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