『鬼滅の刃』受け継がれる胡蝶カナエの遺志、果たされる胡蝶しのぶの怒り
「花柱」胡蝶カナエの遺志
「慈愛」と「憎悪」は、『鬼滅の刃』を深く貫く2本の軸である。主人公の竈門炭治郎は家族を鬼に殺され、「勿論俺は容赦なく鬼に刃を振るいます」と兄弟子に誓うと同時に、「鬼であることに苦しむ者を踏みつけにはしない」と情けをかけようとする(第43話)。
炭治郎がとある鬼に用いた「水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨」が、苦痛を与えない「慈悲の剣」であることによっても、彼の優しさは描かれてきた(第32話)。一方で、彼の兄弟子である冨岡義勇は、「人を喰わない鬼」である炭治郎の妹・禰豆子の存在こそ許すものの、「人を喰った鬼に情けをかけるな」と忠告し、罪を犯した時点で「醜い化け物」に変わるのだという考え方を炭治郎に突き付ける。
それに対して前出のセリフを投げ返し、「醜い化け物なんかじゃない」と憐れむ炭治郎を見詰めた義勇は、「お前は……」と一瞬、言葉を失っている。この時に義勇が連想したのは、かつて「花柱」だった胡蝶カナエ(「蟲柱」胡蝶しのぶの亡き姉)の面影だったのかもしれない。
しのぶは義勇と「鬼と仲良くすればいいのに」「無理な話だ」という問答をしていたが(第28話)、実の所、これはしのぶ本来の考えではない。鬼にすら情けをかける優しさは姉・カナエのもので、彼女自身は鬼に対する怒りと憎悪だけを抱く剣士だったのだ。
原作者の監修による小説版『鬼滅の刃 片羽の蝶』の表題作「片羽の蝶」は、胡蝶姉妹の前日譚。オリジナルエピソード色の強い他の短編に比べ、原作者の考える過去設定が色濃く反映されていると思われるが、そこでは姉を喪った後のしのぶが、別人のように「カナエの口調や性格を模すようになった」と語られていた(実際、鬼殺隊で姉妹一緒だった頃のしのぶの性格は7巻収録の「番外編」でも見ることができる)。
※以下は19巻までのネタバレを含みます