猫と生きる覚悟と幸せを描くーー村山早紀『心にいつも猫をかかえて』評

村山早紀『心にいつも猫をかかえて』評

 『心にいつも猫をかかえて』には、短い小説も4編、収録されています。そのうちの「秋・レストラン猫目石」は、中学時代のほんの短い時間、長崎で過ごした少年が仲良くなった少女との思い出に、猫がちょっとした役割を果たす物語です。東京に帰る前、喧嘩してしまった少女とはもう会えないと、近所で見かけた猫を相手に嘆いていた少年に、猫が『さよならとか、そんげん悲しか言葉、簡単にいうもんじゃなかよ』『いつでも戻ってこんね』と言って笑ったのです。

 怖かったそうですが、強く心に残ったようで、大学生になった少年は少女との約束を果たそうと長崎に来て嬉しい再会をします。猫が結んだ関係の行方に興味がわいてきます。自分も猫が結んでくれる関係に期待して、道行く猫に願をかけてみたくなります。マルモトイズミが撮った長崎の路地や空き地や屋根の上にたたずむ猫たちの写真が、出会いをもたらしてくれる猫を探しに行こうという気にさせてくれます。そんな1冊です。

『魔女たちは眠りを守る』(KADOKAWA)

 実は、村山早紀の最新刊『魔女たちは眠りを守る』(KADOKAWA刊)にも猫が登場します。夜の水路のそばにいた叶絵という女性が、魔女だと名乗る七瀬という少女から「ねえ、寂しいときは、ひとりで暗いところにいてはだめなのよ」声をかけられます。叶絵は書店員でしたが、忙しさの中で頑張ってきた気持ちが切れてしまい、水路に身を投じたくなっていました。

 七瀬に誘われ、足下の暗がりからひょっこりと顔を出した金色の目をした黒猫にも虚を突かれて叶絵は我に返ります。高校生の純粋に本が好きだった頃の気持ちを蘇らせて心を癒やします。猫と本が好きな村山早紀らしい優しさにあふれた小説です。このほか「コンビニたそがれ堂」シリーズ、「かなりや荘浪漫」シリーズといった著作を、『心にいつも猫をかかえて』をきっかけに読むようになったとしたら、猫好きの作者もそこから巣立っていった猫たちも、大いに歓迎してくれるでしょう。

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■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『心にいつも猫をかかえて』
著者:村山早紀
出版社:エクスナレッジ
価格:1,760円(税込)
出版社サイト

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