『SPY×FAMILY』は「まぜるな危険」をやってのけたーーシリアスとコメディがシームレスにつながる面白さ
洗剤の表示に書かれている「まぜるな危険」という言葉を見たことがあるだろうか。これは洗剤に“塩素系”と“酸性”という、ふたつのタイプがあることに由来する。両タイプの洗剤を混ぜると、人体に有毒な塩素ガスが発生するのだ。また、混ぜると危険な物質は、他にもいろいろある。世の中は危険に満ちているのだ。そして「まぜるな危険」は、人間にも当てはまるのかもしれない。スパイと殺し屋と超能力者が疑似家族を形成する、遠藤達哉の『SPY×FAMILY』を読んで、そんなふうに思った。
集英社の「ジャンプ」生え抜きである遠藤達哉は、『TISTA』『月華美刃』の連載を経て、本作により大きな人気を獲得した。物語の舞台は、どこかの世界。隣接している東国(オスタニア)と西国(ウエスタリス)は、10年以上前から冷戦状態にあるが、現在の関係は落ち着いている。しかし東国の国家統一党総裁のドノバン・デズモンドが、戦争を画策しているらしい。この情報をキャッチした西国の情報部は、敏腕スパイ〈黄昏〉を東国に潜入させる。精神科医のロイド・フォージャーを装う彼は、アーニャという娘を孤児院から引き取った。さらに市役所事務員のヨルを妻とし、仲良し家族を偽装する。すべてはデズモンドに接近する手段として、名門のイーデン校に、アーニャを入学させるためである。だが、アーニャは人の心が読める超能力者であり、ヨルは〈いばら姫〉のコードネームを持つ殺し屋だった。かくして秘密を抱えた三人の家族生活が始まる。
というのが物語の基本設定だ。東国と西国の関係は、かつてのソ連とアメリカの冷戦構造を意識したものだろう。現実の冷戦構造を下敷きにした、架空の世界を舞台にしたスパイ漫画というと、石ノ森章太郎の『009ノ1』が思い出される。当時は冷戦が続いており、それもあってか、基本的にストーリーはシリアスであった。それに対して本作は、ベースがコメディである。きわめて有能なロイドが、いままで無縁であった家族という環境に身を置き、さまざまな騒動をクリアしていく。イーデン校の入学試験の下りなどは爆笑ものであり、コメディとして大いに楽しめるのだ。
ところが本作は、コメディから不意にシリアスな展開になったりする。アクション・シーンは容赦なく、当たり前のように人が死ぬ。この緩急が素晴らしい。特に感心したのが、第3巻で登場したヨルの弟のユーリ・ブライアが、ロイドを見極めようと彼らの家にやって来るエピソードだ。実は、市民から秘密警察と恐れられる国家保安局〈SSS〉所属の少尉であるユーリ。姉にも身分を隠しているが、ロイドはスパイならではの知識により、彼の正体を見破る。おお、これは凄いと思ったら、すぐ後に酔っ払ったユーリにより、ロイドとヨルのキスが強要される。シリアスとコメディがシームレスになっていて、読んでいるこちらの感情も振り回される。ここが本作の魅力となっているのだ。