『ブルーピリオド』『アルテ』……絵描き漫画のヒットに見る、クリエイター志向の高まり

『ブルーピリオド』『アルテ』絵描き漫画人気を探る

マンガ家マンガの飽和から

 もちろん、ではなぜ数あるクリエイターのなかでも絵描きなのか、という疑問はあるだろう。

 絵描きマンガの前には『バクマン。』に代表されるマンガ家マンガの流行があった。さまざまなマンガ家マンガが描かれ、飽和状態になったものの、描き手にも読者にも「クリエイターものはおもしろい」という感覚は定着した。

 たとえばここ数年で話題になった小説家マンガには『響 小説家になる方法』があるし、役者マンガも『アクタージュ』や『累-かさね-』『ダブル』『マチネとソワレ』等々と絵描きマンガに勝るとも劣らないくらい傑作がたくさん生まれている。

 マンガは、絵で表現する。マンガ家が絵描きの心理を理解することはたやすいだろう。そして、ここぞというシーンで、絵の説得力で読者を感動されられるマンガ=絵画芸術の最大の武器を使うことができる(役者マンガの多くも、演技の説得力を絵の力で表現しているという点で、絵描きマンガに近い)。

 もちろん、作中に登場する絵を見た人が感動しているのに、マンガに出てくる絵がヘボかったとしたら、読者は納得しない。そこにはほかのジャンルのマンガ以上に描き手には絵に神経を注がなければならないという緊張感があるだろうし、読む側も「すごい絵が見たい」と期待を高めて読む。

 『ブルーピリオド』にしろ『アルテ』にしろ、そのハードルを乗り越えて絵の力で息を呑ませてしまう凄さが、何より読者を惹きつける。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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