『鬼滅の刃』伊之助に通じる、伝統的トリックスターの系譜 最悪の局面を打破できるか?

『鬼滅の刃』伊之助トリックスター論

これから必要なのは伊之助の存在

※以下、ネタバレ注意

 上弦の鬼の中でも2番目に強い童磨は、無限城の戦いで、鬼殺隊の「柱」(=鬼殺隊剣士の最高位)のひとり、胡蝶しのぶを殺す。その死の瞬間を見てしまったしのぶの愛弟子・栗花落カナヲは、単身、童磨に戦いを挑むが、上弦の鬼にはまったく歯が立たず、さらには刀まで奪われてしまう。が、そこに突然現れたのが、伊之助だった。ここで事態は急転し、それまでへらへら笑っていただけの童磨でさえも、伊之助に対しては「何か君、もうホントに全部、滅茶苦茶だなァ」と、(顔では笑っているが)敵としてやや警戒する。これは鬼の本能としては正しいリアクションであり、要するに、この「滅茶苦茶」さが世界を変えることがあるのだ。予想もつかないところから現われ、予想もつかない方法で誰もできなかったことをやり遂げる。それが、常識という名の境界線を軽々と飛び越えるトリックスターの底力なのだ。

 この戦いの結末がどうなったかはここでは書かない。しかし、大事な場面で「思いつきの」必殺技を繰り出す伊之助の型破りな存在が、戦う意志を失いかけていたカナヲに勇気を与え、「柱」でなくても、上弦の鬼と充分渡り合えることを証明した。そしてカナヲも伊之助も、この戦いを経て、自分がひとりではないということを知るのだった。

 なお、現在、『週刊少年ジャンプ』本誌での『鬼滅の刃』の物語は、鬼舞辻󠄀無惨との壮絶な戦いを終え、考えられる最悪の局面を迎えている。生き残った剣士たちは最後の力を振り絞って奮闘しているが、この暗く悲しい状況を打破できるのは、やはり秩序も規範も常識も関係ない、獣の皮を頭にかぶった「滅茶苦茶」なトリックスターをおいてほかにはいない、と思いたい。猪突猛進。がんばれ、伊之助。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69

■書籍情報
『鬼滅の刃(4)』
吾峠呼世晴 著
価格:440円+税
出版社:集英社
公式サイト

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