『空挺ドラゴンズ』登場人物の生き様が胸に迫る理由ーーファンタジーの世界で描かれる、人間の生活

『空挺ドラゴンズ』が描く人間の生活

 狂暴化した龍を捕らえるため、手を組むことになったヴァニーとブルノ。そこで命がけの龍捕りの現場を目にし、ブルノもまた考えを改める。龍捕りの流儀に従って、初めて龍を食べる。驚くヴァニーにブルノは言う。

「それが君たちの龍への弔いなんだろう。だったら僕が一番食べる!!」

 ミカとタキタ。ヴァニーとブルノ。年齢も性別も思想も違う者達が、龍を介して少しずつわかり合っていく。

 この4人だけではない。クィン・ザザ号には何人も船員がいて、それぞれに名前があり、生い立ちがあり、船に乗った理由がある。ある者は龍捕りだった父を追うように。ある者はスラムから脱するために。話が進むにつれてそれが少しずつ明らかになり、モブかと思ったキャラクターにも物語が見えてくる。

 誰も似ていないし、みんなバラバラな方向を見ている。性格も、容姿も、たまの休日の過ごし方も違う。そんな彼らが、同じ船の上で一緒に龍を捕り、食べる。タイプが違う相手でも、同じ釜の飯を食っているうちに仲良くなっていたりする。

 空飛ぶ船だとか、龍とか、ファンタジーだとか、そういうことは関係ない。『空挺ドラゴンズ』で描かれているのは、私たちの現実と同じ、社会であり、人間であり、生活だ。

 現実世界には捕龍船はない。龍捕りもいない。龍の美味しさを知ることもできない。でも、私たちは彼らの感情を知っている。人と関わることの難しさと、わかり合えた時の喜びを知っている。だからこそ、精一杯「生活」している彼らの姿に、こんなにも胸がいっぱいになるのだ。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
Twitter(@erio0129

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