『空挺ドラゴンズ』登場人物の生き様が胸に迫る理由ーーファンタジーの世界で描かれる、人間の生活

『空挺ドラゴンズ』が描く人間の生活

 龍を追いかけ、世界中の空を旅する捕龍船。その船に乗り、龍を捕る者達を「龍捕り(おろちとり)」と呼ぶ。『空挺ドラゴンズ』は、そんな捕龍船「クィン・ザザ号」の龍捕りの物語だ。いかにもファンタジックで、私たちの現実とはかけ離れた世界観。なのにどうして、彼らの生き様がこんなにも胸に迫るのだろうか。

 クィン・ザザ号の船員の1人・ミカは、普段はぼーっとしているのに、食事のこと――特に龍を食べることには異様に関心を持つ男だ。船の上から龍の影を見つければ目を輝かせ、「うまそう」とよだれを垂らす。誰より早く龍の背に向かって飛び降りて槍を突き立てる。毒や電気矢と呼ばれる効率的に龍を仕留める武器も、「味が落ちる」という理由で使わない。食べることしか考えていないように見えるミカを、仲間たちは呆れた目で見ている。

 龍に挑むたびにミカは言う。

「捕って解体して食う。それが龍捕りだ」
「ちゃんと獲ってちゃんと食う」

 それが繰り返されるうちに、だんだんとミカの信念が見えてくる。

「龍はただ一方的にやられるような相手じゃない。殺す覚悟の無いヤツは死ぬぞ」

 ミカは、龍をただの食料として見ているわけではない。畏怖すべき相手として捉え、そのうえで対峙しているのだ。

 そんなミカを間近で見ていたタキタはある日、龍捕りの最中に船から放り出される。落下した先で拾ったのは、龍の子どもだった。タキタは母親のように子龍に話しかけ、餌を作って与える。

「ここでこの子を見捨てたら、私、龍捕りに戻れない気がする」

 龍を捕る立場の人間が、龍を育てる。矛盾しているようにも思えるけれど、その行動はミカと通じるものがある。食糧や、害獣や、愛玩物としてではない。龍を龍らしく扱い、対峙して初めて、龍捕りは龍捕りになる。ミカにもタキタにも、そんな龍捕りのプライドが垣間見える。

 子龍を群れに返すとき、タキタはこう話しかける。

「次に会った時はきっと 私はお前を捕るんだよ」

 矛盾しているように見えるけれど、その言葉は「龍捕りのプライド」で筋が通っている。ミカにならきっと、わかるはずだ。

 一方、クィン・ザザ号のクールビューティー・ヴァナベル(ヴァニー)は、「龍狂い」ブルノと出会う。龍を愛し、調査し、記録して残すことに全力を注いでいるブルノは、龍を殺す龍捕りを蔑んでいる。

「君たちは龍を資源としか見ていないだろう」

 出会った直後こそ感じの悪いブルノだが、龍にかける好奇心と情熱の純粋さを知って、ヴァニーは関心を持つ。生き延びるため、やむを得ず龍捕りになったヴァニーにとって、龍は捕るものでしかなかった。淡々と仕事をこなしてきたけれど、ブルノと出会い、彼の見ているものを自分も見たいと思うようになる。

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