異色の世界グルメ紀行『空挺ドラゴンズ』は“特別な誰かの物語”ではないーーノベライズ担当・橘ももが魅力を解説

橘ももが語る『空挺ドラゴンズ』の魅力

 龍が空に住む世界、その龍を捕り生活をしている龍捕り(おろちとり)たちがいたーー。捕龍船である“クィン・ザザ号”乗組員たちの日常を描いた異色の世界グルメ紀行マンガ『空挺ドラゴンズ』。桑原太矩によって描かれた漫画は単行本7巻まで発売され、1月からアニメもスタートした。本作の魅力や見どころを、『小説 空挺ドラゴンズ』でノベライズを担当した橘ももに聞いた。(編集部)

普通に生きている人たちの物語

ーー『空挺ドラゴンズ』はどんな作品ですか。

橘:この物語の特徴として、明確な主人公がいないんです。もちろん龍の肉を食べるのが大好きなミカ、新人で船に乗り込んできたタキタ。しっかりもののジロー。それから、謎めいたヴァナベルの4人が中心にはなっていますが、その中の誰か一人の過去が語られたり、心の成長に焦点を当てたりせず、彼らの働く生き様を描いている群像劇なんです。

ーーお仕事漫画のようですね。

橘:著者の桑原さん自身が、ファンタジーが描きたかったというよりも、働く人たちの物語が描きたかったと仰っていました。生きるために捕龍船に乗り、日々大変なこともあるけれど、力を合わせて龍を捕り解体して、それを売ることでお金を得ている。特別な誰かの物語ではなく、普通に生きている人たちの物語です。そんな物語を一層輝かせているのが、桑原さんの描く絵です。台詞がなくても龍に出会った時の表情や、龍を食べた時の表情など、見ているだけで気持ちが揺さぶられます。

ーー人間が龍を食料にするという発想は、とても新鮮です。

橘:龍を捕るのは命と向き合う行為なので、狩猟や屠畜とも通じていると思うんですが、それは読者である私がそうやって感じ取っているだけで、全然押し付けがましくないんです。悲壮感もなく、キャラクターたちは男であろうと女であろうと自分の職務に誇りを持っていて、それぞれが尊重し合う仲間として描かれていて、すごく楽しそうなんですよ。色恋沙汰ではなく、人としての関係がきちんと描かれているところも魅力だと思います。

ーー1月にはアニメ版もスタートしました。ノベライズを担当した橘さんから見て、どのように映りましたか。

橘:話の内容は一緒ですが、漫画では描かれていない背景の部分にも光が当たっていて、物語がより立体化しています。作品の魅力や桑原さんの思いを汲み取った上で、監督が物語を捉え直しているというか、ご自身で「これが空挺ドラゴンズのいいところで、ここが好きなんだ」と思うところをしっかりと描いてらっしゃると思います。監督にもお話をうかがう機会があったのですが、食べ物の描写に対するこだわりも強く、パンの気泡の位置や数、お肉の切り方や厚みまで、どうしたら美味しそうに見えるかを考え抜くその姿に、創り手のひとりとして強い感銘を受けました。それに共に生きる人たちが、同じ食卓を囲んでいる場の空気感であるとか、命をいただくということについても考えられていて、原作が大事にしている部分が丁寧にすくい取られていると感じます。音楽も、オープニング・エンディングの歌詞を含め作品の世界観にぴったりです。『空挺ドラゴンズ』が好きな人たちが作っているアニメだというのが、見ているだけで伝わってきます。

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