阿川佐和子が綴る“食卓の思い出”にワクワク 後藤由紀子の『アガワ家の危ない食卓』レビュー

後藤由紀子の『アガワ家の危ない食卓』評

愛しい日々の読書

60年間台所に立ち続けた母のこと

 お母さんについてもたくさんのエピソードが書かれています。21歳でご結婚されてから、家族のために60年以上ひたすら台所に立ち続けてきた方です。「今夜は何を食わせてくれるのかね?」と朝ご飯を食べながら聞くお父さんを、長きにわたり満足させてこられたというのは心より尊敬いたします。

 お父さんが入院されて、そのノルマから解放された時の解放感は、手抜き主婦の私にはとうていわかりえないことです。バターをケチらないオムレツも今朝早速作りましたが、「肌合いの揃ったきれいな卵色の表面、中はほどよく半熟状態でかたちも大きさも、なぜか上品」とはいかず、やはり年季が違いますね。修行あるのみです。

 そんなご両親に育てられた佐和子さんも佐和子さんで、独特な価値観をお持ちです。ブラジャーの話や割箸の話、ラップ二度使いに始まる擬人化したラップの話では声を出して笑ってしまいました。一度使ったラップを洗って乾かしてまた何回か使うんだそう。「そもそもラップの気持ちになって考えてもらいたい」から始まり、

 工場にて、芯にぴっちり巻かれて細い暗い箱の中に閉じ込められて幾星霜。「じゃ、お先に!」「うん、頑張ってきてね、お兄ちゃん! 僕たちも後に続くから! 運が良ければまた冷蔵庫で会おう!」(本文「二度使い」より)

 という会話に続き、

 一度、レンジの光線を浴びてしまえばヨレヨレクシャクシャになるのは明白の理。レンジからそのままゴミ箱に直行する定めである。(中略)一度のみならず、二度、三度の出撃のチャンスを与えてくれるのだ。ああ、よかった。この台所で働けるなんて、僕はなんと幸せ者だろう。

 と私のラップは喜んでいるはずだ。いや間違いなく喜んでいるのですよ。(本文「二度使い」より)

 とあります。一瞬、世代的な感覚かな?と思いましたが、阿川さんはお母さんに「いいじゃない、ティッシュぐらい、ケチ」と言われていたとあるので、これは性分なんでしょうね。とても面白かったです。

 「贅沢アレルギー」のページは私も同じ考えでした。「目が飛び出るほどの高価なフルコースをいただいていておいてナンですが」と阿川節が始まります。

豪勢な買い物をして具合が悪くならない人もいるらしいけれど、私は具合が悪くなる。とにかくその晩餐は、私の身と胃袋には重すぎた。(中略)たまたまながら近くの医院で血液検査をした。検査結果が通知された。
「アガワさん、昨日、なにを食べました? とんでもない危険な数値が出ています」
 血中コレステロール値が、標準を桁違いに上回っているという。通常二百ミリグラム台のものが、二千近くに上昇しているというのだ。
 どうやら私の体は贅沢にアレルギー反応を示すらしい。(本文「贅沢アレルギー」より)

 身分相応というか、その加減は人それぞれですよね。その次の章に出てくるソルロンタンのほうが、個人的にもフィット感がありました。赤坂に好きなソルロンタンのお店があります。久しぶりに行ってみたいなーと思いだしました。

 阿川さんはそういうことも含め、海外のおいしいものをたくさんご存知で、お料理の描写がリアルでとても美味しそうでした。まだまだ知らないお料理がたくさんあるんだろうなーと思うとわくわくします。

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