『波よ聞いてくれ』はただのシンデレラストーリーじゃない 型破りな“お仕事漫画”としての魅力

『波よ聞いてくれ』仕事漫画としての魅力

 ミナレ以外の登場人物も面白い。ADの瑞穂は3匹のカメを飼っていて、その世話をミナレに頼む際に作ったメモがとにかく細かい。ミナレの先輩格に当たるトップパーソナリティの茅代まどかはクールな美女だが、夜の公演で足を広げてベンチに座り、ミナレを相手にカップ酒を煽ってプレッシャーをかける。キャラクターの意外な一面を見せ、おかしみと共に奥行きを与える。

 城華マキエという女性も奥深い。過保護な兄によって家に軟禁されていたが、兄がVOYAGERの店長を車ではねる事故を起こした際、謝りに行くと主張して家から出してもらう。そのままVOYAGERの店員となって、ラジオと掛け持ちでVOYAGERの仕事も続けているミナレの居場所を奪うような働きぶりを見せる。長い髪をした影のある美女というその姿は、『無限の住人』に登場する乙橘槇絵そっくり。2008年放送版『無限の住人』で槇絵を演じた能登麻美子が、『波よ聞いてくれ』のアニメで声を担当するというから、当時のファンは懐かしさに身震いしそうだ。

 アニメで声というなら忘れていけないのが、ミナレを演じる杉山里穂。腹の底から出るような強い声で、どこまでもパワフルな鼓田ミナレというキャラクターに命を吹き込んでいる。アニメを見て声を聞けば、漫画に戻ってもその声でしかミナレの喋りを思い浮かべられなくなるくらいハマっている。お楽しみあれ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『波よ聞いてくれ』(アフタヌーンコミックス)1〜7巻
著者:沙村広明
出版社:講談社
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000025629

■アニメ情報
TVアニメ『波よ聞いてくれ』
MBS、TBS、BS-TBSなどで毎週金曜日深夜放送
各種動画配信サイトにて配信中
https://namiyo-anime.com/

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