女性に“優しい”と言われる男性が結婚できない理由は? 『婚活迷子、お助けします。』第九話

女性に“優しい”と言われる男性が結婚できない理由は? 『婚活迷子、お助けします。』第九話

 橘ももの書き下ろし連載小説『婚活迷子、お助けします。 仲人・結城華音の縁結び手帳』は、結婚相談所「ブルーバード」に勤めるアラサーの仲人・結城華音が「どうしても結婚したい!」という会員たちを成婚まで導くリアル婚活小説だ。第9話は、初の男性編。田中幸次郎は、6~8話の主人公・小川志津子の見合い相手の一人。彼もまた「選ばれない」婚活迷子だった。32歳、次男で年収550万、見た目もそこそこ。恋愛経験も少なからずある。なのに……。幸次郎は、なぜ婚活戦線で苦戦を強いられているのか。

第一話:婚活で大事なのは“自己演出”?
第二話:婚活のためにメイクや服装を変える必要はある?
第三話:成婚しやすい相手の年齢の計算式とは?
第四話:男性はプロフィール写真だけでお見合い相手を決める?
第五話:見合いとは、互いのバックボーンがわかった上で相性を見極める場
第六話:婚活がうまくいかないのは“減点制”で相手を判断してしまうから
第七話:結婚相談所で成婚退会できるのは約3割……必要な努力は?
第八話:婚活迷子に“プロレス”が教えてくれること

女の子が言う“優しい”をポジティブに変換してはいけない

 どうして俺は誰からも選ばれないんだろうな、と田中幸次郎は思った。32歳、飲料メーカーの営業職。年収は手取りで550万。専業主婦の妻を自由にさせていた父親には遠く及ばないが、そんなに悪い条件ではない、という自負はあった。体型は、社会人になってからの不摂生で“がっちり”から“ぽっちゃり”にシフトチェンジしつつあるが「清潔感があるから、クマさんみたい、ってかわいさ売りがギリギリ狙える」と三つ上の姉からお墨付きをもらっている。姉は弟を溺愛するタイプではない、どころか、少しでも褒めたら死ぬのかというくらい口が悪いので、お世辞ではないはずだ、と心の支えにしている。とはいえ、あくまで“ギリギリ”なのは否めないので、清潔感を保つことと深夜のラーメンを控えることを近頃では心がけていた。

 恋愛経験は、多くも少なくもないほうだと思う。大学3年生のとき初めてできた彼女は、イベントサークルの後輩で、就職してすぐ新潟に転勤したのを機に別れてしまった。転勤先でも、4年を経て東京に戻ってきてからも、何事もなかったわけではない。定期的に二人で遊ぶ女性は何人かいたし、そのうち二人とは付き合うまでに至った。一人は半年、もう一人は3カ月で別れてしまったのだけれど。

「あんたは優柔不断だからねー」

 と、今年の正月に帰省したとき、里帰りしていた姉は畳に寝そべり大きなお腹を撫でながら言った。「そろそろいい人はいないの」という母のおさだまりの質問に、別れたばかりであることを告げようかどうしようか一瞬悩んだ隙に「どうせまたフラれたんでしょ」と肩をすくめたあとのことだった。

「いい? 女の子が言う“優しい”をポジティブに変換しちゃだめよ。本当に優しさが評価されてるなら、いま独り身のわけがないんだからね」

 しばらく見ないあいだに姉はずいぶんとぽっちゃりしていた。昔から太りにくい体質であったはずなのだが、妊娠によって食べづわりというのを催したらしく、こまめに食べ続けていないと気持ち悪くなってしまうらしい。産休に入り、里帰りして母の手料理を得たことで、肉付きのよさに拍車がかかったということだった。本人は多少気にしているようだが、昔から体格のよかった幸次郎は、痩せた姉はいつかぽきりと折れてしまうんじゃないかと触れるのもおそろしく(その結果、横暴にされても逆らえない気弱な弟となってしまったわけだが)、今のほうが見ていてほっとする。思い返してみれば、幸次郎が自分から好きになるのは、どちらかというとまるっとした印象のある女性が多く、姉のようにずばずば物を言うタイプではなかった。そのつもりはなかったけれど、無意識に真逆のタイプを好んでいたのだろう。

 ――そういえば、小川さんも。

 太っているわけではないけれど、顔の輪郭がきれいな卵型なところに、第一印象では惹かれたのだった。幸次郎のうっかりミスも笑って許してくれるところにも好感を抱いた。「だからあんたは、まったくもう!」と昔から姉に雷を落とされてきた身としては、頭ごなしに怒られない、笑ってくれる、というだけで大いにありがたい。いや、たぶん幸次郎だけでなく、「女性にはにこにこ笑っていてほしい」というのが大多数の男性にとっていちばんの望みじゃないかと思う。料理上手とか、スタイルがいいとか、そんなものは二の次で、笑ってまるごと受け止めてくれるのならば、それ以外は何も望まない。姉のおかげで、理不尽な指示にもわがままにも応える準備はできている。それなのにどうして、結婚相談所に入って半年もたつのに、だれとも“真剣交際”に辿りつけないのか。

「だから言ってるでしょ、あんたは優柔不断なんだって」

 そう言ったのは、もちろん姉だ。シルバーウィークに帰省したときには、風船のようだと思った腹のふくらみはあとかたもなく、かわりに、目の中に入れても痛くないというのが比喩ではないと教えてくれた、世界でいちばん愛らしい甥っ子をその腕に抱えていた。

「まあさ、正月に私が言ったことを素直に聞いて、結婚相談所に入ったところは評価したいと思うけど。裏を返せば、主体性が欠けてるってことでもあるからね。頼りないと思われて、お断りされてるんでしょ、どうせ」

「美和は口が悪すぎだよ。幸次郎にだっていいところはたくさんあるんだから」

 さすがに見かねたのか口をはさんだ母が「あんまり気にすることないよ」と言ってくれたが、幼いころから姉の小言は話半分で聞くくせがついていた幸次郎は、姉から受けとった甥っ子の、ほっぺのやわらかさと全身からただよう甘いミルクの匂いに夢中だった。こういうところがよくないのかもしれないな、と自分でも思わないでもなかったが、性分なのだからしかたがない。けれど姉は、止まらなかった。

「いいところがあったって、相手に伝わらなきゃ意味ないでしょうよ。だいたいね、本当は尻に敷かれてるくらいがちょうどいいのに、気の強い女はいやだとかいって控えめな子ばっかり好きになるからうまくいかないのよ。そういう子は、男の人に引っ張ってもらいたい子が多いんだから。幸次郎みたいに、なんでもいいよ~好きにしていいよ~なんて言われたって、向こうも困るっつうの」

 気の強い女がいやになったのは姉のせいじゃないか、と珍しく反論しようとした幸次郎だったが、

「だいたいねえ、なんでもいいって言うくせに、こっちが希望出すと、それはちょっととか、あっちのがいいんじゃないかとか、ごちゃごちゃ言い出すでしょう。だったら最初っから聞くなっていうのよ。主体性がないくせに、昭和の価値観を無自覚にひきずってるんだからたちが悪いわ。案を出す労力だけ丸投げして、おいしいとこどりしようとしてんじゃないっつーの!」

 姉が眉をつりあげてヒートアップしていくのを見て、再びおとなしく口をつぐんだ。どうやらこれは、幸次郎ではなく、義兄に対する鬱憤だ。へたに反応すれば、幸次郎への八つ当たりがもっと強くなる。

 それに、ぎくりとしたことも確かだ。確かに幸次郎は、昭和の価値観を引きずっているところがある。女性にはにこにこ笑っていてほしい、というのもたぶんそれだし、控えめで男を立ててくれる人のほうがいいとうっすら思っているのも確かだ。けれど、反面で、全部幸次郎に任せっきりにしてくる甘えたタイプの女性は苦手なのだった。姉のように、最初から全部仕切って決めてくれる存在のありがたさも心地よさも知ってしまっている。……それなのに、口うるさく言われるのだけはいやだ、なんていうのがひどい矛盾だということは、幸次郎にもわかっている。

 結婚相談所に入会して、改めて思い知らされたのは、世の女性がいかに男性にエスコートしてもらいたがっているか、だ。もちろん、全員とは言わない。けれど「最初の待ち合わせで、声をかけるのは男性側から」「初回は、男性が会計をもつのが望ましい」「プロポーズは男性にしてほしいという女性が半数以上」と仲人から聞かされたノウハウに、幸次郎が最初に、率直に抱いた感想は「めんどくさいなあ」だった。初対面の女性に声をかけるのは気恥ずかしいし、奢るのがいやというわけではないが、相手が払うそぶりを見せたら素直に受けとってしまう(だってまあ、そのほうがありがたい)。プロポーズも、大げさなことはできればしたくなかった。この年で、しかも結婚相談所で出会った相手とつきあうということは、結婚の意思があるということくらい、言わなくてもわかるじゃないか。そう思っていたのだけれど、

「気恥ずかしいのは女性だって同じです」

 と、苦言を呈したのは、姉とタイプのよく似た仲人だった。

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