婚活で大事なのは“自己演出”? 橘もも、リアルな婚活描く新連載小説スタート

婚活で大事なのは“自己演出”? 橘もも、リアルな婚活描く新連載小説スタート

婚活迷子、お助けします。 仲人・結城華音の縁結び手帳

 橘ももの書き下ろし連載小説『婚活迷子、お助けします。 仲人・結城華音の縁結び手帳』は、結婚相談所に勤めるアラサーの仲人・結城華音が「どうしても結婚したい!」という会員たちを成婚まで導くリアル婚活小説だ。第一回は、彼氏と別れたばかりの傷心女性が、頑なな会員の心を華音がときほぐしていく場面に遭遇。出会いの機会を増やすための心構えの第一歩とは?

ジャケット姿の女は言った

「ありのままで愛される人間なんて、この世にいません」

 ざわついた店内で、きっぱり言い切る声が中邑葉月の耳に届いたのは、なじみの喫茶店ですっかり冷え切ったコーヒーを口にしたときだった。

「大事なのは自己演出です。なりたい自分となれる自分が違うように、したい恋愛とできる恋愛も違うんです。結婚も同じ。理想ではなく、現実を見ましょう。私達は少女マンガの主人公ではないし、じっとしているだけで魅力に気づいてくれるヒーローも存在しません」

 葉月は腰を浮かせて、間仕切りの向こう、右隣の座席をそっと覗きこんだ。

 話しているのは紺のジャケットを羽織った女性で、意志の強そうな瞳がぎらりと光っている。葉月の斜め向かいに座る彼女をあまり見ていると目があいそうなので、そのまま立ち上がった。雑誌をとりにいくふりをして、うつむきながら「でも」とか「だって」と繰り返している相手の様子をうかがう。遠目からでも顔立ちが整っていることがわかる彼女も、ジャケットの女性も、どちらも30代前半にみえた。友達、にしては口調がかたいが、単なる知り合いと話すにしては内容に棘がある。険悪というわけではないが、重苦しい雰囲気をまとった二人に、葉月はがぜん興味がわいた。それが趣味の悪いことだとわかりつつ。

 ――さっきまでの私たちの会話も、もしかしたら聞かれてたのかな。

 いちばん手前に置いてあるファッション誌を手にとり、葉月は踵を返した。そこでようやく、うつむいているほうの女性の様子がわかる。ワンレングスの黒髪はつややかだが目元にかかっているせいで印象が暗く、さらに着ている洋服も真っ黒だ。タートルネックのニットは似合っているが隙のない印象を与え、唇が不機嫌そうに歪んでいることもあいまって、なんとなく近寄りがたい。

 なんて、見ず知らずの他人の風貌を、ジャッジするようなことを考えるなんて、ほんとうに趣味が悪い。それでも葉月は耳をそばだてながら席に戻った。いまは気をまぎらわせられるものなら、なんにでも縋りたい気分だった。

 ジャケット姿の女は言った。

「まずは、髪型と服装を変えましょう。死ぬまでそうしろとは言いません。目的を果たすまでです。前髪をつくって、明るい色のお洋服を着てください。そうすれば必ず申し込みも増えますから」

「でも!」

 黒髪の女性が初めて、語気を強めた。

「この髪型を育てるのに、10年かけているんです。簡単に言わないでください。だいたい前髪がなんだっていうんですか。そんなのあるかないかで何が変わるんですか」

「変わります。断然、柔らかく優しい雰囲気になります。……ただ、10年はたしかに長いです。髪型はそのままでもかまいません。かわりに巻いてみてはいかがですか。ふんわりボリュームをもたせてみては。それからお洋服も、白いアンサンブルなどを」

「量産女子アナみたいな格好して、メイクを変えて、にっこり笑えっていうんでしょう? 何度も聞きました。でも、そんなことしたら男にナメられるだけじゃないですか。私、上から目線の男がいちばん嫌いなんです。そんな媚びを売って、自分を曲げて、幸せになれるとは思いません」

「…………これも、何度も、申し上げて、おりますが」

 スーツ姿の女性は、爆発しそうな感情をこらえるように、ゆっくり言葉を刻む。

「いくら服装自由といわれても、就活の面接で迷彩スーツを着てくる人はいませんよね。着るとすれば、その服装に紐づく強力な武器を携えている人だけです。右へならえの就活スタイルはおかしいって言われますけど、私、面接する側としては、みんな同じ格好だから個性を見つけやすい場合もあると思うんです。あれ、この人は他とちょっと違うな、って思ってもらいやすくなるというか。だから」

「でも就活では、立場が対等じゃないですよね。婚活は、対等につきあえるパートナーを探す場なんだから、話がちがうんじゃないですか」

 かたく、ぶすくれた声で、黒髪の女性は切り捨てた。ジャケット姿の女性の言葉を、まるきり受け取る気配のないそのかたくなさに、聞いている葉月がはらはらした。

「それより、もっとちゃんと、私に合った人を紹介してください。半年お世話になってますけど、エスコートもできなきゃ、会話もうまくない、地味でダサい人ばっかり。最近は、年収も身長も、私が出している希望より低いこともあるし」

 そこまで聞けば葉月も、二人の関係にピンときた。結婚相談所。先ほど目に入った机の上の封筒に、ブルーバードと書いてあった。あれがもしかしたら社名だろうか。葉月はスマホをとりだし、さっそく検索をする。

「私の友達は半年で成婚して退会したのに。だから、高いお金を払って申し込んだんですよ。それなのにちっとも、仮交際にももちこめやしない。期待外れです」

「……ですから、状況を変えるためにもまずは見た目を」

「私の見た目が悪いっていうんですか」

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