成婚しやすい相手の年齢の計算式とは? 『婚活迷子、お助けします。』第三話

成婚しやすい相手の年齢の計算式とは?

婚活迷子、お助けします。 仲人・結城華音の縁結び手帳

 橘ももの書き下ろし連載小説『婚活迷子、お助けします。 仲人・結城華音の縁結び手帳』は、結婚相談所に勤めるアラサーの仲人・結城華音が「どうしても結婚したい!」という会員たちを成婚まで導くリアル婚活小説だ。第3回は、結婚相談所「ブルーバード」を訪れた中邑葉月に、華音が婚活における「年収と年齢の関係」を説く。数字から見えるスペックの非情さに表情がこわばった葉月だったが、そんな彼女は、そもそもなぜ結婚相談所に登録したいと思い立ったのか。(稲子美沙)

第一話:婚活で大事なのは“自己演出”?
第二話:婚活のためにメイクや服装を変える必要はある?

「成婚しやすい相手の年齢の計算式!」とはなんぞや

「……計算式」

 想定外の言葉だったのか、戸惑う中邑葉月をあえて正面から見据えながら、華音は続けた。

「これは仲人のあいだでよく言われていることなのですが、女性の場合、お相手に希望する年収を100で割った数をご自身の年齢にプラスしたものが、成婚しやすいお相手の年齢となります」

「…………というと?」

「たとえば、29歳の中邑さまが、年収500万の方と結婚したいのならば、34歳以上の方にお申込みするのが適正ということです。お顔立ちの良い方をご希望ならさらに4歳プラスして38歳。逆に、太っていても大丈夫なら4歳マイナスで30歳、髪が薄くても大丈夫ならさらに2歳マイナスで28歳となりますね」

 信じがたいものを聞いた、というように、葉月は目を見開く。

「……えっと。私の年収がだいたい500万くらいなんですけど。年齢も年収も同じくらいの、禿げても太ってもいない男性と結婚するのはむずかしい、ってことですか?」

「結婚するのがむずかしい、というよりは、お見合いを成立させるのが簡単ではないということです。まあ、今申し上げたのはいちばん簡略な計算方法で、容姿や年齢に対する男性の印象などを加味していくと、また多少変わってはくるのですが……」

 25歳から29歳までならマイナス3歳、身長165センチ以上ならプラス1歳、平均体重より5キロ太っていればプラス5歳、というように。怒り出す人もいるが、婚活市場において最初に評価されるのは、数字から見えるスペックなのだ。

「残念ながら、結婚相談所に申し込む方の数は、女性のほうが多いんです。20代から30代の男性で、年収も見た目もそれなり以上という方にはお申し込みが殺到するので、かなり熾烈な奪い合いとなるんですよ」

 申し込みが多ければ多いほど、プロフィールで得られる情報、つまりは見た目と年齢が重視される。そして傾向として、男性が若くて美人な女性を選びがちだ。葉月は何かを言おうとして飲みこむ、を二度ほど繰り返したあと、助けを求めるような視線を華音に向けた。

 気持ちは、よくわかる。

 華音が最初に、紀里谷がこの話をするのを聞いたときは、やはり同じような表情を浮かべていたはずだ。嘘でしょ、そんなに厳しいの? ていうか、まともな男性が少ないなら結婚相談所に入るメリットってなくない? 華音と同じ疑問を、葉月も抱いているに違いない。華音は小さく息を吸った。

「ただし、これはあくまで統計です。中邑さまの場合は、そうですね……ギリギリとはいえ20代なので、まずは同年代から10歳ほど上まで、年収300万以上の方のなかから20名ほどお申し込みされるといいと思います。半数以上のOKがあれば、もう少し条件をあげてもいいでしょう。逆に、指定条件以上の方からお申し込みされる場合もあると思います。ようするに、いま申し上げた統計を無視して、たとえば『年収500万以上で35歳以下は譲れない!』と条件にこだわり続けていると、見合いを組めないまま年月だけが経ち、ますます難しくなっていく、という悲劇が起こる可能性が高くなります」

「…………なるほど」

 華音の言葉を、どうにか飲みこもうとするように、葉月はぎこちなくうなずく。

「もちろん、理想条件の方を見つけたときに、お申し込みされるのは自由です。我が社は、月に100名までお申し込みできるコースと、200名までお申し込みできるコースがあるので、わりと広い範囲で活動できるかと思います。お見合いセッティング料も無料ですし」

「厳しいんですね。婚活って。……ちょっと、ナメてたなあ」

 ようやく笑みを浮かべた葉月の表情はこわばっていた。そうだろう、と華音は思う。きわだって美人とはいわないが、葉月の醸し出す雰囲気と笑うとやや幼くなる表情から察するに、これまで異性とまるきり縁がなかったというタイプではない。むしろ、ややモテてきた部類のはずだ。だがそういう人ほど、無意識に高望みしすぎて苦戦しやすい、というのも華音が経験から学んだことだった。

「しょっぱなから厳しいことをお伝えしてしまいましたが、結城の申し上げたとおり、これはあくまでも統計です。入会された場合は、お相手へのご希望やライフスタイルなどお話をうかがい、ご相談しながら一緒に頑張っていきたいと思っていますよ」

 紀里谷が、例の甘やかな声で口を挟む。とたんに、葉月が肩に込めていた力を抜いて、ほっとしたような表情を浮かべたのがわかった。ずるいよなあ、と華音は思う。声が硬質で表情のバリエーションの少ない華音が、もっと怖い人だと思ってたと言われることが多いのに対し、紀里谷は初対面でも第一声から相手の緊張感を解いて、懐にもぐりこんでしまう。こればっかりは才能だ。……そして、そういう才能を備えているかもしれない若くてかわいい女性たちと、戦わなくてはいけないのが婚活なのだ。

「会員さまが、本当に好きになれる方を見つけるお手伝いをするのが、我々の仕事です。年齢だけで判断して、無茶を押しつけるような真似はいたしません」

「……好きになれる人を、探してもいいんですか」

 紀里谷の言葉に、葉月は目をしばたたく。

「恋愛と結婚はちがう、ってよく言うじゃないですか。いまのお話を聞いていても、感情を優先させたらだめってことなのかな、ってちょっと思っちゃったんですけど」

「感情だけ、を重視してはだめだと思います。恋は盲目って言いますからね。でも、好きだと思えない相手と一生は添い遂げられないでしょう。もっとこの人のことを知りたい、一緒の時間を過ごしたい、だから結婚する、というのが理想の形だと僕は思っています。お見合いはあくまで、出会いの窓口に過ぎません」

「私の説明が、端的すぎたかもしれませんが」

 華音も、紀里谷とともに身を乗り出す。

「統計は、出会いの数を増やすための手段に過ぎません。この条件は微妙だなあ、と思っていたのに、会ってみたら誰といるより居心地がよくて逃すまいと思った、と結婚を決意された方は男女ともにたくさんいらっしゃいますので、そうしたチャンスを逃さないように、という願いもこめてお伝えしております」

 そうですか、と葉月はつぶやいて、目線を落とした。何かを言おうとして迷うような彼女のしぐさに、紀里谷と華音は黙って待つ。葉月は麦茶で咽喉をうるおすと、ぴんと伸ばしていた背筋を少しゆるめ、ややリラックスしたような表情を浮かべた。

「もう、好きになれる人を探しちゃいけないんだと思っていました。……事務的に結婚相手を探せるなら、そっちのほうが楽なのかもって思った、っていうのもありますけど」

「よろしければ、結婚相談所に登録しようと思い立った経緯を教えていただけますか?」

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