バイきんぐ西村、隠しきれない才能がにじみ出た初エッセイ集『ジグソーパズル』を読んで
バイきんぐの西村に対してあなたはどんなイメージを持っているだろうか。相方の小峠よりはパッとしない? キャンプ好き? 彼の初のエッセイ集『ジグソーパズル』を読めばきっと印象がガラリと変わるはずだ。
以前ハライチ岩井『僕の人生には事件が起きない』の書評を書き(https://realsound.jp/book/2020/03/post-520860.html)、普段本を読まないのに文章が書ける彼を絶賛したが、間をあけずにまさかの第二の刺客登場である。実は岩井のエッセイを読む前から、私は西村の文章力の高さを知っていた。本書の冒頭に収録されている「終わらないジグソーパズル」を連載が始まって初めて読んだとき、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。本にすると3ページほどのその文章からは隠し切れない才能がにじみ出ていた。内容は西村が独身時代から足掛け14年やり続けて未だに完成しないジグソーパズルについて。(なぜそんなに時間をかけているのに完成しないのかは読んで確認してみてほしい)いつか本になるそのときまで待とうと思い、私はその後敢えて連載を読まずに書籍化を待ち続けた。2016年の12月のことだった。
3年余り待ち続けた末の待望の書籍化。待っていて良かった。なんだこの面白すぎる文章は。内容の面白さもさることながら、文章が妙にカッコいいのだ。そもそも14年も同じジグソーパズルをやり続けられる人間が只者なわけがない。
あるとき、近所のお店に好きなAV女優さんがサイン会に来てくれることを知り、その日ネタ合わせをする予定だったのをどう断ろうか迷っていたら相方の方から「歯医者に行くから、今日のネタ合わせはやめよう」と言われ、喜び勇んで会場に向かったら列の先頭に小峠が並んでいた。〈「おい、歯医者はどうした?」そんな野暮なことは聞かない。そんなことはどうでもいいのだ。俺たちは同志だから。〉ふたりはその後女優さんと握手をし、有料オプションのポラロイドツーショット撮影までしてもらった。実にいい話だ。このコンビの絆の深まり方に羨ましい気持ちが止まらない。
また、あるときは仕事で丸刈りにすることになり、楽だし元々ハゲていたのもあってそのままスキンヘッドでいこうかと話したら相方に止められた。「俺たちはただでさえ見た目に華がないのに、二人ともスキンヘッドはさすがに汚すぎる」予期せぬハゲからハゲのダメ出しである。〈まさか逃げた人間から、逃げの行為を否定されるとは夢にも思っていなかった。ただ、それも一理あるなと思い、僕は逃げる道を捨てたのだった。〉西村は相方の助言通り今もM字ハゲを貫いている。相方への愛ゆえだと私は思いたい。