『約束のネバーランド』子どもたちの本当の敵は鬼ではない? 骨太なファンタジーが投げかける難問
週刊少年ジャンプ(集英社)で連載している『約束のネバーランド』(1~17巻)は、白井カイウ(原作)と出水ぽすか(作画)による少年漫画だ。舞台はGF(グレイス=フィールド)ハウスと呼ばれる孤児院。11歳の少女・エマは施設の中で孤児の子どもたちとママと呼ばれるイザベラに見守られ、幸せな日々を送っていたが、ある日、自分たちが鬼の餌となる食用児として育てられていたことを知ってしまう。エマは頭脳明晰なノーマン、レイと共に、施設からの脱出を計画し、着々と準備を進めていくのだが、やがて残酷な現実を知ることになる……。
まず驚くのは第1話だろう。流麗な絵で描かれた牧歌的で優しい世界が一皮めくると不気味な鬼たちが支配する残酷な世界だったという反転は、子ども向けになる以前のグリム童話が内包していた恐ろしさを彷彿とさせる。
何より恐ろしいのは、母親が敵だということ。子どもにとって母親は自分を庇護してくれる絶対の存在だ。そんな母親が、鬼の餌として自分を育てていたのである。70年代に母親が理由もなく子どもを殺す姿を描いた『ススムちゃん大ショック』という永井豪の短編ホラー漫画が反響を呼んだが、本作もまた、子どもにとって一番の恐怖を描いた漫画だと言える。幼少期に読んでいたら、相当トラウマになっていたと思う。
主人公のエマが11歳の女の子だというのも少年ジャンプでは異色の設定である。つまり描かれるのは娘(エマ)と母(ママ)の戦いで、どちらかというと少女漫画的なモチーフだが、あまり意識せずに少年漫画として楽しめるのは、エマが少年のようなキャラクターであることと、心理描写と設定が細密で、ビジュアルの説得力が圧倒的だからだろう。
物語は1巻から5巻の37話までが、エマが子どもたちと共にGFハウスから脱出する話。それ以降が、鬼が支配する世界を放浪しながら、エマたちが安心して暮らせる場所を探す居場所探しの物語となっていくのだが、序盤の脱出編がダントツの完成度を誇っている。
設定として上手いのは敵が重層化されていること。エマの戦う相手は鬼と、鬼に従うママたち人間の大人だが、脱獄の計画を練る過程でエマ、ノーマン、レイの意見は衝突し、三人の間でも駆け引き(戦い)がある。中でも意見が割れるのが「誰をつれて行くのか?」という問題。
エマたち三人なら無事逃げることができるが、残された子どもたちは食用児として出荷されてしまう。しかし、小さな子どもたちを連れていくと足手まといになり、全員が命を落としかねない。