大倉忠義と成田凌で実写映画化『窮鼠はチーズの夢を見る』から読むBL漫画の進化

『窮鼠はチーズの夢を見る』から読むBL漫画の進化

 その時代BL作品の読者は腐女子と呼ばれていたが、今では一般的に読まれる作品が増えてきた。それは、男と男のというより、人と人との恋愛模様がいかに難しく真剣なものかということを描くものが増えたからだろう。

 去年ドラマ化されたよしながふみの『きのう何食べた?』のゲイカップルはすでに恋物語を通過していて、食生活を通して人と生きることにフォーカスを当てている。ボーイズラブ作品というよりも料理漫画なこの作品が多くの人に読まれるのは、他人と過ごす生活そのものに共感できるからである。現代は、もはやBL作品は腐女子だけのものではない。だからこそ今作品も、映像化され多くの人の目に映るのではないだろうか。

 作品中、大伴の元彼女が自分か今ヶ瀬か選ぶように迫り、答えられない大伴に「迷うの?男と女だよ?」と言い放つシーンがある。たった一言で表現される容赦のないセクシュアルマイノリティへの視線。水城らしい鋭いセリフである。

 このように水城が描くキャラクターには綺麗な絵柄の反面、人は案外欲望に弱く、思っていることや言っていることが二転三転するのは当たり前、無意識に倫理に反してしまうこともザラにある、そんな本当は見たくない人の本性のようなものを見せられる。

 大伴という主人公は「自分(大伴)のことを好きな人が好き」なために恋人がいても迫られると関係を持ってしまうという人間らしいダメっぷりで、妻と離婚することになったり人妻と関係を持ったり、BL作品ながら男女の生々しいやりとりも詳細に描かれている。今ヶ瀬は、「自分以上に貴方を好きな人間はいない」と強気に迫るが、目を瞑ったままでは関係は発展しないと大伴自身に明確な選択を求め続ける。

 今まで恋愛において受身だった大伴には、惹かれている自分に気が付いていてもそれを決断する勇気がない。再会した彼女を選べば“ノンケ”として楽だが……。

 深い愛情とともに強烈な嫉妬の感情を抱えている今ヶ瀬の駆け引きや収拾のつかない気持ちがふんだんに描かれ、実らない恋を諦められない姿は見ていてとても苦しい。一方30歳にして本当の恋を知らないかもしれないという大伴は、恋愛的にノーマルでいた自分が男に好意を持つこと自体が非常事態でパニック寸前。2人は時間も身体も心も費やして少しずつわかりあっていく。

 16年前、ある意味ファンタジーとして限定的だったボーイズラブ作品は変化し続けて、今では腐女子という言葉も廃れつつある。決して綺麗ごとだけではない人間同士の恋物語を、ぜひ多くの人に受け止めて欲しい。

■書籍情報
『窮鼠はチーズの夢を見る』(フラワーコミックスα)
著者:水城せとな
出版社:小学館
発売日:2009年5月8日
https://comics.shogakukan.co.jp/book?isbn=9784091325143

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる