『pet』連載終了から17年、今なお人々を惹きつける理由は? “まだ見ぬ世界”描く三宅乱丈の作家性

『pet』アニメ化で再注目、三宅乱丈の作家性

 三人兄弟の長女で子供のころからお話を考えるのが大好きだった三宅は、弟妹のために夜ごとたくさんの物語を作っていたらしい。今でも誰に見せるためでもなく、びっしりと字と絵が描かれた設定ノートをつくっている様子が『漫勉』でも映されていた。

 複雑な設定に対して、「説明描写」が少ないことを指摘される三宅の作品だが、膨大で緻密な世界観がきちんと土台にあるからこそ、彼女の描く世界は圧倒的リアリティーと共に、読者の眼前に広がっていく。

 『pet』が魅力的なのは、この絶妙な構成力によって、主要な登場人物の印象が物語の最初や途中、最後でガラリと変わっていくことにもよるだろう。なかでも、とある人物に隠された「秘密」は胸に迫るものがあり、本作の感想ではそのエピソードについて触れるものも多い。詳細を記すことは避けるが、『ハリー・ポッター』シリーズでセブルス・スネイプに感じた衝撃を、その人物からも感じることができる。

 また、『イムリ』でも見られるような、この世のものではない三宅ならではの奇想もこのころから顕在だ。能力者たちが人間の記憶に入った時に目にするのは、事実と感情が混ざり合った、夢(ときに悪夢)のような情景だ(作品内では、人生で最も素晴らしかった記憶は“ヤマ”、つらかった記憶は“タニ”と呼ばれ、非常に大切な役割を果たす)。

 私たちは『pet』の登場人物たちが持つような、他人の記憶がみられる特殊能力は持たないが、三宅のような稀有な才能を持つ描き手によって、自分の中からは湧いてことのない“まだ見ぬ世界”に触れることができるのだ。

■六原ちず
編集者、ライター。出版社勤務を経て、フリーに。子どもの頃の夢はマンガ図書館の館長。@chizu_rokuhara

■作品情報
『ペット リマスター・エディション』全5巻
著者:三宅乱丈
出版社: KADOKAWA
発売中
https://www.kadokawa.co.jp/product/301501001343/

■TVアニメ・舞台「pet」公式サイト
https://pet-anime.com/

 

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