『約束のネバーランド』読者を惹きつけるポイントは? 緻密なストーリーと頭脳戦の魅力
2020年10月にアニメ2期、そして12月には実写映画の公開を控え、より一層の盛り上がりをみせる『約束のネバーランド』。ジャンプ漫画の王道「友情・努力・正義」の要素を兼ね備えながらも、他とは一線を画した異色のダークファンタジーとして人気を博している。アニメはあのノイタミナが制作とあって、ファンの期待を裏切らぬハイクオリティのまま1期を駆け抜けてくれた。
『約束のネバーランド』は、“食用児”として鬼たちに育てられた人間の子どもたちが、自由を求めて鬼と戦う物語。この文面だけ見ると鬼(悪)と戦うヒーロー(正義)というジャンプ王道の図式であるが、そう単純では済まないのがこの物語の良いところ。最新刊では敵味方入り乱れての激しい頭脳戦が繰り広げられている。
ジャンプにおけるジェンダーフリーの先駆けとなるか?
この物語のメインキャラクターはエマ、レイ、ノーマンの3人。孤児院に見立てられた食用児を育てる農園で一緒に育ってきた3人は、秀でた頭脳と運動神経を持っていた。3人の中でも特にメインとして、この物語を引っ張っていくのが唯一の女の子であるエマである。
少年誌であることから、主人公が男性の作品が多いジャンプにおいて、女性がメインとなる作品はまだまだ多くない。その上、エマは仲間を守り導くヒロインとして描かれている。
ジャンプ漫画における女性は、主人公の恋愛相手としてや、お色気要員として扱われることが多かった。戦闘においても、主人公の補佐的役割となることがほとんど。男性同様戦いに身を投じていても、どこかで「守るべき相手」としての、いわゆる固定観念により作り出された社会的性別としての「女性像」を感じさせる描写を含む作品がまだまだ多い。
しかし、エマはそうではない。今のところ、『約束のネバーランド』に恋愛的要素はみられない。そして補佐としてサポートするのではなく、エマが先陣を切ってこの物語を切り開いていっている。頭脳面・肉体面においてもエマとレイ、ノーマンはほぼ同等であると表現されてる。そこにも性別による差はみられない。「守るべき相手」としての扱いもされることがない。女性が男性と同等な主人公として描かれているのだ。今までのジャンプ作品にはみられなかった特徴である。
近年ジェンダーフリーの考え方が日本でも知られるようになってきた。しかし、浸透しているとはまだ言えない。少年のこれからに大きな影響を与える週刊少年ジャンプだからこそ、このような作品はこれから増えていってほしいものである。
『約束のネバーランド』の残酷な真実
物語の中核に話を戻すと、この物語はピーターパンに登場するおとぎの国「ネバーランド」が題名に冠されている。ネバーランドとは、ピーターパンやティンカーベル、人魚たちの住まうおとぎの国。その国にいる間は誰も年を取ることがなく、足を踏み入れた人間はその時点の姿で成長が止まってしまう。成長が止まり大人になれない国を、大人になる前に鬼の食糧となってしまって大人になることができない彼らの境遇と重ね合わせているのだろう。
また、『約束のネバーランド』の「約束」がどのようなものなのかも物語が佳境へと進んだ最近わかってきた。この約束は、1,000年前に鬼と人間とが交わした「約束」のことを指していると推測される。この二つから考えると、鬼と人間の約束により大人になれないことが決まっている世界=約束のネバーランドなのだろう。