“リアルレスラー”ケンドー・カシンが新著で明かす、プロレス人生と大仁田厚への本音

ケンドー・カシン新著レビュー

プロレス冬の時代と現在

 90年代、プロレスはブームの頂点にあった。女子プロレスを含めた多くの団体が東京ドームで興行を打ち、空前の活況を迎えていた。しかし2000年代に突入するとK-1、PRIDEといった格闘技の台頭、スター選手の事故や死、なにより暴露本に代表されるスキャンダルの頻出によって、プロレスは一気に冬の時代を迎える。様々な団体が活動休止、分裂、規模縮小を余儀なくされ、格闘技ブームとともにその灯火が潰えるのも時間の問題かと思われていた。

 だが、格闘技系の団体が様々な問題で軒並み消滅した一方で、徐々にプロレスは息を吹き返していく。そして2010年代、新日本プロレスを中心として、再びプロレス界は活況を取り戻すに至る。特に新日本プロレスは新たな客層の獲得と積極的な海外戦略も相まって、業績としてはドームツアーを開催していた黄金時代と言われる、90年代を超える売り上げを叩き出すまでに至り、ここにきてプロレスブームと言っても差し支えないレベルのムーブメントを起こしつつある。

 そんな90年代から現代を生き抜いてきたレスラーの1人がケンドー・カシンである。「レスリング全日本選手権優勝」の肩書きを持って新日本プロレスに入団。当初はレスリング仕込みのグラウンドテクニックで玄人受けする、一介の若手レスラーに過ぎなかった彼だが、ヤングライオン杯優勝者に与えられる海外遠征を経て、マスクマンであるケンドー・カシンに転身。すると徐々に素顔の石澤常光時代には想像もつかなかった、中西学などに対する失礼な言動や、タイトルマッチにいきなり素顔で出てきて勝利したあとで、ベルトを投げ捨て賞状を破り捨てるなどの寄行でレスラー、フロント、マスコミ、ファンまでをも翻弄。その振る舞いで人気を集めていき、IWGPジュニアヘビー級王座も獲得するが、突如としてライバル団体・全日本プロレスに移籍。そこでもその奇行はさらにエスカレート。ついには無断欠場を繰り返した挙句、解雇処分を受けることに。その後もプロレス、格闘技を問わず様々な団体を渡り歩いたかと思えば、早稲田大学の大学院に進学したり、震災後には音信不通になったりと、常にファンの想像の斜め上を進んできた。確かな技術と実力を兼ね備えた、しかし予測不能のレスラーらしいレスラーであると言えよう。

 本書『50歳で初めてハローワークに行った僕がニューヨーク証券取引所に上場する企業でゲストコーチを務めるまで』は2017年に刊行された『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』に続く、ケンドー・カシンにとって2冊目の著書である。前作出版後のカシンの歩み、そしてWWE(世界で最も大きなアメリカのプロレス団体)のパフォーマンスセンターに、ゲストコーチとして招聘されるまでの道のりを、カシンの思いや言葉を辿りながら……という内容では決してない。むしろ、本書のタイトルに即した下りは冒頭2〜30Pで終了しており、あとはタイトルとは一切関係のない内容で占められている。一応インタビューは(特に序盤は)なんとかWWEの話に結びつけようとカシンに質問を投げかけるが、気がつけば、話はどんどん別のベクトルへ進んでいく。話が多岐に及ぶため、全体の印象が散漫になるかといったら決してそんなことはなく、そこで出てくるレスラー、格闘家、関係者のエピソードがいちいち面白いから始末に追えない。また必要以上に話を引っ張ることもなく、必要最低限のコメントでテンポ良く話題が転がっていくそのリズム感は非常に心地よく、気がつくと時間が経つのを忘れてページを読み進めてしまう。

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