永田カビ『現実逃避してたらボロボロになった話』が描く、エッセイ漫画家の葛藤と決意

永田カビ、人生そのものを漫画化する苦悩

 永田カビの新刊、『現実逃避してたらボロボロになった話』が、11月7日にイースト・プレスから発売された。永田は、当時タイトルを目にしなかった人はいないのではないかと思われるほど大ヒットした『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』が、エッセイ漫画家としての処女作だった。元々はフィクション漫画を描いていた永田の、ありったけの叫びが込められた内容は、多くの人々の心を揺さぶった。そんな“さびレズ”から3年。『一人交換日記』、『一人交換日記2』が発売され、そして今回1年半ぶりの新作となった。

「これは、酒飲みメンヘラアラサーマンガ家が2018年10月7日アルコール性急性膵炎と脂肪肝で入院してから10月26日退院するまで そして、それを、描くに至るまでの話です」

 プロローグとして語られるこの簡潔な文章で、この本の内容の大部分を把握することはできる。突然の腹痛から始まり、入院生活や病状、フィクション漫画のネームを描き続け、エッセイを封印しようとしていたこと、そこから今作を描くに至るまでの葛藤が描かれている。

 つまり“さびレズ”のように、「どうしてレズ風俗に行き着いたのか?」という衝撃にも似た疑問で読み進めるようなものではない。その後の永田がどう生き何を描いたのか。そこに意味があり、興味がある。

 今作を読んでいる間、今年亡くなった漫画家・吾妻ひでおを思い出していた。吾妻もフィクション漫画家をでありながら、原稿や家庭から逃げるためにお酒を飲み、失踪し、壮絶なホームレス生活を経験した。その衝撃的な日常を描き、エッセイ漫画家として再ブレイクした『失踪日記』には、「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」という前置きがある。たしかに著者自身の日常や人生を題材とするエッセイというジャンルは、それらを読み物にするためにしばしばリアリズムを排除する。それは、実体験をファンタジー化するということでもある。人物をキャラクター化したり、笑えないことをマイルドにしたりすることによってやっと、日常を漫画にできる。そうしなければ著者そのものがむき出しになってしまい、読み物にならないからだ。

 今作の中で永田は、「エッセイは二度と描かない」と思いながら、フィクション漫画のネームを病室で描くシーンがある。“さびレズ”で大きな反響があったと同時に身近な人を傷つけたことが理由だった。

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