『死役所』はなぜ、理不尽な死に様を描くのか? 現実感のある“死後の世界”の意味
一見真面目に見えるシ村が元死刑囚となった理由。そこには、あるカルト団体への恨みが関係していた。ストーリーが進むにつれ、少しずつ明らかになるシ村の過去は読者の予想を裏切るほど悲しく、壮絶。シ村にまつわる、たくさんの「なぜ」が解明されていくたびに作品の重厚感は増し、死役所が意味ありげな場所であるかのようにも思えてくる。この仄暗い世界観は、作者のあずみきしにしか描けないものだ。
本作には悲惨な虐待死や悪意が立ち込める理不尽な死に様も多数描かれているため、時には目を覆いたくなることもあるだろう。だが、作中に描かれている死は、実際に日本のどこかで起きているものかもしれない。あずみきしは私たちが目をそむけてしまいやすい死をあえてすくいあげ、伝えているように感じるのだ。
死をテーマにした感動的な作品は取りざたされやすい。だが、ハッピーエンドではない死を目の当たりにしてこそ、考えたくなる未来の築き方もあるはず。「人生に少し疲れた」「この先、どう生きていこうか」――そう思っている人は本作を手に、「死」との向き合い方を考えてみてほしい。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事も執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■作品情報
『死役所』
あずみきし 著
価格:¥446(Kindle)
出版社:新潮社