『BEASTARS』が描き出す、食欲と性欲の狭間にある感情 革新的な人獣漫画の魅力を考察

『BEASTARS』が描き出す、食欲と性欲の狭間

 チワワブーム、猫ブーム、カワウソブームなど、日本では様々な動物がブームとなり、そのたびに関連するコミックエッセイや漫画などが数多く発刊される。動物が持つかわいさや優しさなどを描いた作品は読者の興味を引きつけ、心を温かくさせるものだ。

 そんな一般的な動物漫画とは異なるのが、動物を人に置き換えて性欲と食欲が交差する人間模様を描いた『BEASTARS』(板垣巴留/秋田書店)。本作は第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞や2018年のマンガ大賞大賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門など、名だたる賞を総ナメにした注目作。ほのぼの系ストーリーではなく、人間が持つ狡さや歪みを、擬人化した高校生の動物に描き出している。

 作者の板垣巴留は、『グラップラー刃牙』(秋田書店)でおなじみの板垣恵介の娘。この事実は今年の9月に発刊された『週刊少年チャンピオン』で明らかとなったばかりだ。

 板垣巴留は2016年、『週刊少年チャンピオン』14号にて『BEAST COMPLEX』第1話を掲載。この作品は4号連続の短期連載だったが、同年、同誌の41号に『BEASTARS』の連載を開始。漫画家としてデビューする。斬新で奥深い世界観が話題となり、今年の10月にはテレビアニメ化され、Netflixでの独占配信も開始された。

肉食獣と草食獣が繰り広げる、種族を越えた友情や恋、そして対立

 舞台は肉食獣と草食獣が共存する「チェリートン学園」。この世界では肉を食べることは重罪。ストーリーは、演劇部に所属していたアルパカのテムが何者かに殺されたことから幕開ける。凄惨な事件を前にして部員たちはピリつき、肉食獣と草食獣の間にある確執は色濃くなった。

 そして、テム殺しの疑いは同じく演劇部に属するハイイロオオカミのレゴシに向けられることになる。大型の肉食獣であるレゴシは、寡黙な学園生。だが、生前のテムと親しくしており、テム亡き後に彼のロッカーを漁ったり、同じ演劇部員でアルパカのエルスを部活中にじっと見つめたりするように……。その態度に気づいたエルスは「次は自分が殺されるのは……」と思い、不安に駆られる。

 そんな時、ひょんなことからエルスはある夜、レゴシとふたりきりになってしまい、死を覚悟。だが、レゴシが誰にも見られずエルスとふたりきりになったのには、ある深い理由があった。そのワケを知ると、読者の目に映るレゴシの姿は180度変わる。

 レゴシはその見た目から誤解されやすいが、本当は虫も殺さぬほど繊細。彼が牙を見せつけるのは争いを避ける時だけ。肉食獣らしい傲慢さではなく、草木のような繊細さを持っている。

 そんなレゴシはある出来事を経験し、“不思議な感情”と向き合わなければならなくなった。きっかけは同じ演劇部の花形役者であり、権力者のルイ(アカシカ)に命じられ、夜間侵入した体育館の見張りを行ったこと。見張り中、レゴシは1匹の小さなドワーフウサギのハルを本能的に捕まえてしまう。腕の中にハルを捕えたレゴシは彼女を欲してしまい、肉食獣としての本能(食欲)を自覚し、自己嫌悪する。しかし、この出会いは甘酸っぱい青春の始まりでもあったのだ。

 本能と理性の狭間で揺れ動く動物たち。テムの事件によって学園内に生まれた肉食獣と草食獣の確執が消える日は、果たしてやってくるのだろうか。そして、レゴシの心に芽生えた“不思議な感情”の正体は本能と恋、どちらなのだろうか。

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