『なめらかな世界と、その敵』伴名練が語る、SFの現在地「社会の激変でSFも期待されている」
今はSFにとってすごく良い時代
――その伴名さんの姿勢にも通じる部分があるかもしれませんが、最近、アマゾンレビューに端を発する「『彼方のアストラ』はSFなのか」という論争がありましたよね。あの一連の議論をどう思いましたか。
伴名:SFの定義は人によって全く異なるので、『彼方のアストラ』をSFとして面白いと思う人もいれば、SFとして認めない人もいます。ただ、自分は自分のSF観を、作品を否定するために用いるのは避けています。むしろ、好きな作品を語る時に、この作品のこのアイデアがSFとして素晴らしいみたいに語りたいですね。それぞれの作品には作品ごとにファンがいるわけで、それを「あれはSFじゃないから駄目」と言われたら、ファンの人はSFを嫌いになりますから。
――伴名さんから見て、『彼方のアストラ』はどんなSF作品なのでしょうか。
伴名:自分があの作品をSFとして面白いと思った点は、色々な惑星の色々な生物や気候を描いていて、それらの不思議な性質や特徴を、主人公たちがいかに経験して学び、危機を乗り越えていくかを描いていたところです。ジュブナイルSFの王道ですよね。それでいて、複数のどんでん返しなどミステリ読者に受ける部分もあったからこそ、広い読者にリーチしたのだと思っています。
――現在のSFシーンについてお聞きします。現在のSFシーンを率直にどう捉えていますか。
伴名:すごく盛り上がっていて、良い時代になっていると思います。衰退が叫ばれて議論になっていたのは90年代半ばで、その時代ですら、北野勇作さん、小林泰三さん、高野史緒さん、田中啓文さん、牧野修さん、森岡浩之さんなど多くの作家が新鋭として活躍されていましたが、90年代はSF作品にSFと銘打って売っていなかったんです。作家の方々はSFのつもりで書いていても、SFと名乗ると売れないというイメージを持った編集者や出版社が、オビや宣伝文句からSFという名前を消していました。
でも、今はSFというジャンル名が忌避されないどころか、『なめらかな世界と、その敵』の帯だけでSFという単語が3回も出てくるぐらいで、明らかに時代は良くなっています。90年代はハヤカワSFコンテストも止まってしまって、新人作家がSFと名の付いた賞からデビューすることができなくなったんですけど、今はハヤカワSFコンテスト、創元SF短編賞にゲンロンSF新人賞もありますから、SFの名を背負った新人作家がどんどん出てくる環境ができています。同世代の新人に限っても、『ゲームの王国』の小川哲さんや、『最後にして最初のアイドル』の草野原々さんなどはジャンル外からも注目されていますし、本当にすごく良い時代になったと思います。海外でも中国SFは台頭するし、テッド・チャンの新刊も出るしグレッグ・イーガンも書き続けているし、そのうえ社会に激変があることでSFにも期待される潮流が来ています。こんなに幸せな時代に立ち会えてすごく嬉しいですし、自分もどさくさに紛れてもっと売れたいです(笑)。
――実際かなり売れているそうですね。
伴名:ありがたいことです。自分の本が売れたのも、たくさんの方がジャンルを盛り上げてくれたからだと思っています。あと、なんと言っても赤坂アカ先生の装丁の力が大きかったと思います。
後編:伴名練が語る、SFと現実社会の関係性 「大きな出来事や変化は、フィクションに後から必ず反映される」
(取材・文=杉本穂高)
■書籍情報
『なめらかな世界と、その敵』
伴名練 著
価格:1,870円(税込)
発行:早川書房
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