スロージャーナリズムが人々をデジタル疲れから救う? 『デジタル・ミニマリスト』の提案

デジタル疲れに“スロージャーナリズム”を

 私たちはデジタル・ツールで情報を追うのに精いっぱいだ。SNSやニュースフィードに注意を向けさせられ、惰性で情報摂取することもある。しかし、こういった状況は、ユーザーの意志だけではコントロールしようがない。なぜなら、テクノロジーを生み出す企業は、ユーザーが注意を向けるよう意図的に開発・運営しているからである。

 では、デジタル・ツールに追われる生活を止めるにはどうすればよいのか? 『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』(早川書房)では、その対処法としてデジタル・ミニマリズム=一握りのツールの主体的な利用を提案する。

 著者のカル・ニューポートは、前著『大事なことに集中する―――気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』(ダイヤモンド社)の発売後、読者から次のような反響を受けた。「仕事を離れた場面でもやはり新しいテクノロジーにつきまとわれ、生活の質や充足感が低下しているような気がして、そのことにさらに大きなストレスを感じている」と。それをきっかけに、本書の執筆に取りかかったのだという。

 本書の目標は、「根拠を示してデジタル・ミニマリズムの有効性を伝えること」である。さらに「実践には何が必要か、なぜうまくいくのかを詳しく探求し、そのあとデジタル・ミニマリズムを取り入れるには何をすべきかを説明していく」とある。豊富な実証例からSNSやニュースフィードへの依存構造をひもとき、そこから説得力ある手法を提示するのだ。

 詳細は本書にゆずるとして、本稿ではデジタル・ツールによる“疲労感”の対処法に焦点を当てたい。その一つとして有効なのは、スローメディアの活用だ。

 本書でも触れているように、スローフードの流れに倣うかたちで、スローメディアは登場した。「2010年初め、社会学、テクノロジー、マーケット・リサーチと三者三様のバックグラウンドを持つドイツ人トリオ」が、とある文書をネット上に公開。その名は『Das Slow Media Manifest』。「英語に訳せば『The Slow Media Manifesto(スローメディア・マニフェスト)』」である。  

 以下、全文を見てみる。

「21世紀の最初の10年間、テクノロジーにおける“遊び心”は、メディア環境の技術的基盤に大きな変化をもたらしました。おもな流行語は、ネットワーク、インターネット、ソーシャルメディアです。20年後、人々は新しいテクノロジーを探し求めなくなり、現状よりさらに簡単かつ高速で、費用対効果の高いコンテンツ制作が可能になります。しかし、私たちにとって、スローメディア革命に対する世間の反応は、政治的、文化的、社会的に発展し、統合されるべきだと考えています。「スローダウン」ではなく「スローフード」のような「スロー」という概念がこのための鍵です。「スローフード」のように、スローメディアは単に消費の減速をねらうわけではなく、ニュース素材を慎重に選択し、周到な準備をすることです。スローメディアは誰にでも開けており、読者にとって親切なメディアです。私たちはこのマニフェストをみなさんと共有したいです」(The Slow Media Manifesto)

 イギリスの『Delayed Gratification』は、世界初のスロージャーナリズム誌として2011年に創刊された(以降、DGと表記)。同誌は、速報として一度は報道されているものの、数ヵ月すぎても充分な解説はなされていないとみなしたニュースを収集。速報時のトピックにその背景を付け加えるだけでなく、写真、インフォグラフィック、グラフィックノベルもまじえ、視覚に訴える記事にする。最新号の2019年9月号では、今年の4~6月に報道されたニュースについて詳述している。例えば、火災の起きたノートルダム大聖堂の保存方法や、天安門事件から30年の振り返りといった内容だ。DGは速報系が主流になりがちな報道業界で、スロージャーナリズムを主流に食い込ませることを目標としている。

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