是枝裕和にとって『真実』はどんな映画なのか? 書籍『こんな雨の日に』が示す、もう一つの物語

この物語の構想は16年前からあり、現在の母と娘の物語の形にリライトされたのもこの日誌に書いた通り、4年も前のことである。

 だから最初から抱いていた「読後感の爽やかなものに」という思いと、昨年この作品の準備中に亡くなられた樹木希林さんとは、直接的には何の関係もない。

 にもかかわらず、どうしてもこの映画を讃歌にしたいと強くこだわったのは、そうこだわることで自分が希林さんという映画作りのパートナーを失った喪失感に引っ張られないでいたいという、そんな気持ちからだったのだろうと、1年経った今気づいた。

 そう、もしかすると本書は、その製作過程を振り返ることによって、この『真実』という映画が監督自身にとって、どういう意味を持つ映画だったのか──それを監督自身が実感するような一冊ではなかったのか。その告白は、不意打ちのように、読む者の心を捉えて離さない。それにしても、映画とは、あるいは人生とは、かくもさまざまな出来事が、直接・間接的に繋がりながら編み上げられていくものなのだ。映画『真実』を準備し、作り上げていく最中に、周知の通り是枝監督は、映画『万引家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞し、その名声を世界の映画ファンに轟かせた。そして、同年の秋に、是枝作品の常連と言うよりも、もはや是枝監督の映画作りのパートナーであった女優・樹木希林を失った。

 その2つの出来事と、今回の『真実』という映画には、本人も明記しているように、直接的な因果関係は無いのだろう。しかし、それらの出来事が、この映画に何の影響も与えなかったかと言えば、決してそんなことは無いのだろう。このように、私たちが普段観ている映画の向こう側には、さまざまな人々の知られざる物語があり──映画とは、さまざまな人々や出来事のめぐり合わせの果てに生み落とされる、ひとつの“たまもの”なのだ。そのことを改めて感じさせてくれるような、とても読み応えのある一冊だった。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

■書籍情報
『こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』
是枝裕和 著
価格:本体1,454円+税
発売/発行:文藝春秋

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